小督こごう)” の例文
いちばんおちいさい小督こごうどのなども最早やおひとりであんよをなされたり、かたことまぜりにものを仰っしゃったりなされましたので
盲目物語 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
盛り上がる古桐の長い胴に、あざやかに眼をませと、への字に渡す糸の数々を、幾度か抑えて、幾度かねた。曲はたしか小督こごうであった。
虞美人草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
節は平家、曲は「小督こごう」、声も音も未だ幼稚おさなく、人に聞かせて金を得るほどの、えもたくみもなかったがいつまでも立ち去ろうとはしなかった。
蔦葛木曽棧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
「さあ……。祇園精舎ぎおんしょうじゃ初語しょがたりもよし、小督こごう忠度ただのり都落ち、宇治川、敦盛あつもり、扇ノ与一。どれも嫌いなものはないの」
私本太平記:02 婆娑羅帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
戸灘瀬となせの滝まで行って引き返し、田鶴子さんの御所望ごしょもうに従って小督こごうの塚というのに寄った。容姿を全幅とするものには死は絶対に万事の終焉おわりと見える。
ぐうたら道中記 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
小督こごうがあった。袈裟御前もあった。一九〇五年に、団子坂の菊人形はそういうものばかりを見せていた。
菊人形 (新字新仮名) / 宮本百合子(著)
最早三船の才人さいじんもなければ、小督こごう祇王ぎおう祇女仏御前ほとけごぜんもなく、お半長右衛門すらあり得ない。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
もうおもてをかけんとおかしいのう。面をかけると序の舞やらがくやら舞うけに面白いがのう。ハテ。何にしようか。今度一度だけ『小督こごう』にしようか。うむ、『小督』にしよう『小督』にしよう。
梅津只円翁伝 (新字新仮名) / 夢野久作杉山萠円(著)
小督こごう
いちばんすえの小督こごうどのが忝くもいま将軍家のみだいでおわしますことを、だれがそのときおもいましたでござりましょう。
盲目物語 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
かんをうけて、将軍家に謁し、晴れて世子せいしとなってからは、幼心おさなごころにも得意であったが、この頃、わしの乳母うばとして、小督こごうという女がいつも側に仕えておった
梅里先生行状記 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
論より証拠音が出るんだから、小督こごうつぼねも全くこれでしくじったんだからね。これがぬすみ食をするとか、贋札にせさつを造るとか云うなら、まだ始末がいいが、音曲おんぎょくは人に隠しちゃ出来ないものだからね
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
もう一献いっこんおすごしなされませ、さあもう一献と矢つぎばやに三杯までかさねさせてその三杯目の酒をわたしが飲んでいるあいだにやおら「小督こごう」をうたい出した。
蘆刈 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
小督こごうだな」平曲へいきょくはちかごろ流行はやっているので蜘蛛太にも、それだけわかった。
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
小督こごうつぼねの墓がござんしたろう」
虞美人草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
と仰っしゃいましたので、お初どのも小督こごうどのも、おなじように「わたくしも/\」と右と左からおふくろさまにおすがりなされ、およったりがいちどにこみあげてお泣きなされました。
盲目物語 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)