小暗こぐら)” の例文
小暗こぐらい横町にかくれて、すばやく乞食の着物をぬぎすてますと、その下には茶色の十徳姿じっとくすがたのおじいさんの変装が用意してありました。
怪人二十面相 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
そりもなければ、犬もいない。歩きなれない氷上を、一行は小暗こぐらいカンテラの灯をたよりにして、一歩一歩敵地にすすんでいった。
大空魔艦 (新字新仮名) / 海野十三(著)
雨にげた渋塗りの門をくぐって、これも同じく、朱塗りの色さめた弁天堂の裏手へ進んで行くと、ここにも恐しいほどな松の大木が、そのあたりをば一段小暗こぐらくして、物音は絶え
曇天 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
まずスクリーンの明るさで、室の中は暗闇だというほどではないが、しかし椅子の下、後方の両脇などには、小暗こぐらい蔭があった。
赤外線男 (新字新仮名) / 海野十三(著)
その時廊下の小暗こぐらい所でお雪が小さな紙切れを明智に手渡したのを、先に立った山木は少しも気づかなかった。
一寸法師 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
小暗こぐらいレールを踏み越えて、ヒラリとプラットホームに飛びあがった大江山警部の鼻先に、ヌックリ突立つったった男があった。
省線電車の射撃手 (新字新仮名) / 海野十三(著)
山吹の里公園の小暗こぐらい繁みの中に入ったとき、思いがけなくドカンという銃声と共に、ウィンドー・グラスが粉微塵こなみじんにくだけちった。私はウムと左腕をおさえた。
空中墳墓 (新字新仮名) / 海野十三(著)
そういって語る安宅の顔付には、その年頃の溌刺はつらつたる青年とは思えず、どこか海底の小暗こぐら軟泥なんでいんでいる棘皮きょくひ動物の精が不思議な上咄うえばなしを訴えているという風に思われた。
三人の双生児 (新字新仮名) / 海野十三(著)
カーテンの色は、生憎その鏡のある場所が小暗こぐらいためよくは判らなかったが、深い紫のように見えた。もちろんその鏡の上には、こっちの部屋の調度などがそのまま反対に映っていた。
不思議なる空間断層 (新字新仮名) / 海野十三(著)
小暗こぐら森蔭もりかげに連れ込まれて、あわや狼藉ろうぜきというところへ飛び出したのが僕だった。
恐しき通夜 (新字新仮名) / 海野十三(著)
小暗こぐら田舎道いなかみちを五丁ほど行った広い丘陵きゅうりょうの蔭に彼の下宿があるそうである。
麻雀殺人事件 (新字新仮名) / 海野十三(著)
私はこの夜店の委員会の認可を受けた上で、黒の中折帽子に同じく黒い長マントを引摺ひきずるように着て、凩の吹く坂道の、小便横町の小暗こぐらかどに、おさだまりの古風な提灯ちょうちんを持って立商売たちしょうばいを始めた。
大脳手術 (新字新仮名) / 海野十三(著)
ただ道傍や空地には、カンテラや小暗こぐらい蝋燭をともして露店が出ていた。
棺桶の花嫁 (新字新仮名) / 海野十三(著)