妙見みょうけん)” の例文
これは、邸内に妙見みょうけん大菩薩があって、その神前の水吹石みずふきいしと云う石が、火災のあるごとに水を吹くので、未嘗いまだかつて、焼けたと云う事のない屋敷である。
忠義 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
「幸助殿はかしこにておぼれしと聞きしに」振り向いて妙見みょうけんの山影黒きあたりをしぬ、人々皆かなたを見たり。
源おじ (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
一、二ノ曲輪くるわ妙見みょうけん出丸でまる、そのほかの諸将もみな一つに寄りかたまり、ここではかえって声もなく、ただ金剛全山の異様な敵のうごきに、ひとみをこらし合っていた。
私本太平記:08 新田帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
近いところは物の影がくっきりと地を這って、なかごうのあたり、いらかうろこ形に重なった向うに、書割かきわりのような妙見みょうけんの森が淡い夜霧にぼけて見える。どこかで月夜がらすのうかれる声。
丹下左膳:01 乾雲坤竜の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
妙見みょうけんやしろの縁に腰をかけて話し込んでいるのは老人と若い男です。この両人は別に怪しいものではない、このあたりの山里に住んで、木も伐れば焼畑やきばたも作るという人たちであります。
雲仙の主峰普賢ふけんを初め妙見みょうけん仁田にた峠、絹笠きぬがさ高岩たかいわ野岳のだけと数えて来ればはるかにそれ以上の展望美を有する地点は十指を屈するも足らぬが、さりとてここの展望にもまた特色があっていい
雲仙岳 (新字新仮名) / 菊池幽芳(著)
あいつら一体どこへ行くのか、妙見みょうけんさまへ夜詣りでもあるめえと思いながら、まあどこまでも追って行くと……。それがどうも不思議で、いつの間にか二人の姿が消えてしまいました。
真鬼偽鬼 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
「そりゃ権現ごんげんさまもあり、妙見みょうけんさまもあり、金毘羅こんぴらさまもある。神さまだか、仏さまだかわからないようなところは、いくらだってある。あらたかでありさえすれば、それでいいじゃありませんか。」
夜明け前:01 第一部上 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
お吉とお米とは、かつて久しぶりに、九条の渡舟わたしで会ったことがある。その時のお吉は、消息の絶えた万吉の身を案じて、四貫島かんじま妙見みょうけんへ、無難を祈りに行った帰るさであった。
鳴門秘帖:04 船路の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
人の噂をなかば偽りとみるも、この事のみはまことなりと源叔父がある夜酒に呑まれて語りしを聞けば、彼の年二十八九のころ、春のけて妙見みょうけんともしびも消えし時、ほとほとと戸たたく者あり。
源おじ (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
妙見みょうけん勝三郎」
魔像:新版大岡政談 (新字新仮名) / 林不忘(著)