妖婦ようふ)” の例文
どんな妖婦ようふでも、昔の毒婦伝に出て来るような恐ろしい女でも、自分を恨んで死んだ男の遺書かきおきを、こうまで冷酷に評し去る勇気はないだろう。
真珠夫人 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
さまざまな男からお前はほんとの妖婦ようふだなどと言われて、自分の肉体はそんなにまで男に強い刺撃しげきを与えるものかと、次第に自覚した後熟練を積み
つゆのあとさき (新字新仮名) / 永井荷風(著)
鮑聶ほうしょう等の女仙は、もと古伝雑説より取りきたって彩色となすに過ぎず、しこうして月君はすなわ山東蒲台さんとうほだい妖婦ようふ唐賽児とうさいじなり。
運命 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
驚きの表情はすぐ葉子の顔から消えて、妖婦ようふにのみ見る極端に肉的な蠱惑こわくの微笑がそれに代わって浮かみ出した。
或る女:2(後編) (新字新仮名) / 有島武郎(著)
彼女は「妖婦ようふ」と名づけても見たいような、一見物凄い感じのする美人でしたから、「こんな女を征服したなら」という、妙な心を起してしまったんです。
遺伝 (新字新仮名) / 小酒井不木(著)
娘はかわいそうだ、主あるものは罪だ……その時、七兵衛の頭に、むらむらと湧いて来た面影おもかげは、神尾主膳のところにいたお絹という妖婦ようふのことであります。
大菩薩峠:22 白骨の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
徳川時代のお家騒動や、一国の治乱興廃の跡を尋ねると、必ずかげに物凄い妖婦ようふ手管てくだがないことはない。
痴人の愛 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
新鮮な蜘蛛の巣のような妖婦ようふを私は好きであるが、そんな人には私はまだ会ったことがない。
いずこへ (新字新仮名) / 坂口安吾(著)
カバレット銀座の情婦、無智な妖婦ようふから電話がかかってくる。私は裸でお前の心に転落する。ニグロの海よりも鉛色の恋の貸家、お前馬鹿ほどたのもしいものは、この世にない。
恋の一杯売 (新字新仮名) / 吉行エイスケ(著)
妖婦ようふ気取りのお由は、国太郎にぴったり寄添いながら非常に嬉しそうであった。
白蛇の死 (新字新仮名) / 海野十三(著)
庸三もちらちら動きの多い小夜子の黒いひとみが、どうかすると冷たい光を放って、その瞬間昔の妖婦ようふを想像させるような美しさを見せることは知っていたが、それも、葉子などとはちがって
仮装人物 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
孔子が公宮から帰って来ると、子路が露骨ろこつに不愉快な顔をしていた。彼は、孔子が南子風情ふぜいの要求などは黙殺もくさつすることを望んでいたのである。まさか孔子が妖婦ようふにたぶらかされるとは思いはしない。
弟子 (新字新仮名) / 中島敦(著)
彼女を早くも嫌って恐れて、逃れて来た自分にさえ、なお執念深く、その蜘蛛くもの糸を投げようとしている。恐ろしい妖婦ようふだ! 男性の血を吸う吸血鬼ヴァンパイアだ。
真珠夫人 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
彼女が東洋的魅惑と西洋的均整とを兼ね備えた妖婦ようふ型であることで、一と昔前の亜米利加アメリカの映画女優にアンナ・メイ・ウォンと云う仏蘭西フランス人と支那人の混血児がいたが
細雪:02 中巻 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
ところが、残念にも、私はそれを、手もなくき上げられてしまったのです。あの方は、妖婦ようふです。僕達には、とても真面まともに太刀打は出来ない人です。
真珠夫人 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
彼女のような妖婦ようふになると、内臓までも普通の女と違っているのじゃないか知らん、だから彼女の体内を通って、その口腔こうこうに含まれた空気は、こんななまめかしいにおいがするのじゃないか知らん、と
痴人の愛 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)