塞翁さいおう)” の例文
ところが人間万事塞翁さいおうの馬、七転ななころ八起やおき、弱り目にたたり目で、ついこの秘密が露見に及んでついに御上おかみ御法度ごはっとを破ったと云うところで
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
時節が到来して多年な宿望が達せられたわけだ——しかも自分のと名のつく金でだ——まったく人間万事塞翁さいおうが馬であると
え゛りと・え゛りたす (新字新仮名) / 辻潤(著)
南部に襲われ蝶を逃がし、大川の中へ転がり落ち、負けくじばっかり引いたかと思うと、今度は恋人の桔梗様と逢う。塞翁さいおうが馬っていうやつさな
神秘昆虫館 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
三味線堀手枕舎里好たまくらやりこうの家で残余のこりの小判を呑んでいる女を突きとめることができたとは、人間万事塞翁さいおうが馬、何からいいつるをたぐり当てるか知れたものでない。
つづれ烏羽玉 (新字新仮名) / 林不忘(著)
「人間万事塞翁さいおうが馬」です。よいことがあったかと思うと、そのかげにはもう不幸が忍び寄っているのです。
般若心経講義 (新字新仮名) / 高神覚昇(著)
「はッ、はッ、はッ、何がせえわいになるものだかわからねえ、また何が間違えになるものだかわからねえ、人間万事塞翁さいおうが馬よ、馬には乗ってみろ、人には添ってみろだ」
大菩薩峠:17 黒業白業の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
「人間万事塞翁さいおうの馬。元気を出して、再挙をはかるさ。人生七十年、いろいろさまざまの事がある。人情は飜覆ほんぷくして洞庭湖の波瀾はらんに似たり。」と洒落しゃれた事を言って立ち去る。
竹青 (新字新仮名) / 太宰治(著)
塞翁さいおうが馬とは、よくいったもので、なにが仕合せだったか、なかなかわからないものである。
黒い月の世界 (新字新仮名) / 中谷宇吉郎(著)
支那の馬譚で最も名高きは、『淮南子』に出た人間万事かくの通りてふ塞翁さいおうの馬物語であろう。これは支那特有と見えて、インドを初め諸他の国々に同似の譚あるを聞かぬ。
人間万事塞翁さいおうが馬、——何が起るか見当もつかないところに人間の宿命があるのであろう。
本所松坂町 (新字新仮名) / 尾崎士郎(著)
古来のことわざにも「人間万事塞翁さいおうが馬」とあるがごとく、天道は決して一人の者に幸福のみを与うることなく、また不幸のみを下すことなく、幸福の後には不幸あり、不幸の後には幸福ありて
おばけの正体 (新字新仮名) / 井上円了(著)
人間万事は塞翁さいおうの馬であります。この理を悟ってみれば、当分の受難時期は偶々我々並びに我々の子孫に貴い教訓を垂れるものとして、禍を福に転ずるの意気込が茲に湧いて来るのであります。
新憲法に関する演説草稿 (新字新仮名) / 幣原喜重郎(著)
けれど「塞翁さいおうが馬を無くしても、災難とまったものではない」
阿Q正伝 (新字新仮名) / 魯迅(著)
曰く「塞翁さいおうが馬」、曰く「盧生之夢ろせいのゆめ」、曰く「世短意常多」と。
二十歳のエチュード (新字新仮名) / 原口統三(著)
わざわいは福のたね、福は禍の種に候。人間万事塞翁さいおうが馬に御坐候。
吉田松陰 (新字新仮名) / 徳富蘇峰(著)