唐木からき)” の例文
さて其の夏も過ぎ秋も末になりまして、龜甲屋から柳島の別荘の新座敷の地袋に合わして、唐木からきの書棚を拵えてくれとの注文がありました。
名人長二 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
かねてからわが座敷の如何いかにも殺風景なのを苦に病んでいた彼は、すぐ団子坂だんござかにある唐木からき指物師さしものしの所へ行って、紫檀したん懸額かけがくを一枚作らせた。
道草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
店をしめて長崎へ行って唐木からきの貿易でもし、もう一度もとの身代にしようというので金三郎をつれて長崎へ行ってしまった。
顎十郎捕物帳:20 金鳳釵 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
和蘭オランダ風と言ふか、平次には見當もつきませんが、疊の上に異樣な模樣を織り出した絨毯じうたんを敷いて、唐木からきの机、ギヤマンの鏡
緑色にすっかり塗られてきらきら光って居るところへ、金でもってチベット風の花模様が置かれてある厚い敷物、唐木からきの机、ちょいとした仏壇もある。
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
この護摩堂の天井は唐木からき合天井ごうてんじょうになっておりまして、そこに親獅子おやじし仔獅子こじしの絵がかいてあった——今はないけれども——その母獅子のほうは、狩野秀信かのうひでのぶの作。
丹下左膳:03 日光の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
次ぎは直ぐ仇討かたきうちの幕になった。狭い舞台にせゝこましく槍をしごいたり眉尖刀なぎなたを振ったり刀を振り廻したりする人形が入り乱れた。唐木からき政右衛門まさえもんが二刀を揮って目ざましく働く。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
しら蓮や唐木からきくみたる庭舟にはぶねぢんたきすてて伯父の影なき
恋衣 (新字旧仮名) / 山川登美子増田雅子与謝野晶子(著)
唯私はあの三間もある高いところへ這ひ上がつて、唐木からきの小口を見るやうな身輕な人間は誰だか知りたかつたんで。
唐木からきの机に唐刻の法帖ほうじょうを乗せて、厚い坐布団の上に、信濃しなのの国に立つ煙、立つ煙と、大きな腹の中からはちうたっている。謎の女はしだいに近づいてくる。
虞美人草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
……それからまた二年おいた一昨年おととしの秋、ひょッくりやって参りまして、そン節の詫言かねごとをさまざまにいたし、お種さんの婿殿むこどん唐木からき商売あきないをしておるというのであッたら
其の道了さまのお丸薬に帝釈さまのお水が有りまする、此方こちら唐木からき違棚ちがいだなには、一切煎茶の器械が乗って居りまして、人が来ると茶盆が出る、古染附ふるそめつけの茶碗古薩摩こさつまの急須に銀瓶が出る
俺はその躰術が見たいので、わざと唐木からき空洞くうどうに小判があると言ひ出したんだ——一萬兩の大金が俺の言つた通り唐木に空洞を拵へて隱してあつた事は驚いたよ。
何気なにげなく座布団ざぶとんの上へ坐ると、唐木からきの机の上に例の写生帖が、鉛筆をはさんだまま、大事そうにあけてある。夢中に書き流した句を、朝見たらどんな具合だろうと手に取る。
草枕 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
サーツと水の如く流れ込む月光、その光の中に曲者は、三間あまりの高さにある唐木からきの上に這ひ上がつて、一本々々切口のあたりを覗いてをります。恐ろしい身輕さです。
わが、唐木からきの机にりてぽかんとした心裡しんりの状態はまさにこれである。
草枕 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)