呼気いき)” の例文
旧字:呼氣
荷馬橇の馬は、狭霧さぎりの様な呼気いきを被つて氷の玉を聯ねたたてがみを、寒い光に波打たせながら、風に鳴る鞭をくらつて勢ひよく駈けて居た。
菊池君 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
大地はさながら鉱石あらがねを踏むようにてた朝、例の土方がてんでに異様ないでたちをして、零点以下の空気に白い呼気いきを吹きながら
駅夫日記 (新字新仮名) / 白柳秀湖(著)
背嚢はいのうのような箱から管が二本出て口と鼻とに連絡し、巧みに弁の作用で、一方から新しい空気を送り、他方に呼気いきを出すようになっている。
話の種 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
一言ずつ、呼気いきくと、骨だらけな胸がびくびく動く、そこへ節くれだった、爪の黒いてのひらをがばと当てて、上下うえしたに、調子を取って、声を揉出もみだす。
菎蒻本 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
それも呼気いきの通る音が次第にうすれると、唇も弾力を失つたかのやうにぢつと静まつてしまつたが、同時に顔の皮膚一面に現はれて来た一種滑らかな、静止し
鳥羽家の子供 (新字旧仮名) / 田畑修一郎(著)
私は彼女の呼気いき温味あたたかみを頬に感じました。彼女の鼓動を私の胸に感じました。
悪魔の聖壇 (新字新仮名) / 平林初之輔(著)
丁度フラスコの口に斜めに呼気いきを吹き付ける時に出る音と同じ訳で、両掌の間の空洞内の空気が振動して音を出すのである。
歳時記新註 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
停車場ていしやばから宿屋まで、僅か一町足らずの間に、夜風のひえおとがひを埋めた首巻が、呼気いき湿気しめりで真白に凍つた。
菊池君 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
「ああそう」と虫の呼気いきのように応えたが、サモきまりが悪そうに受け取って、淡暗うすぐら洋燈ランプの光ですかして見たが、「どうもありがとう」と迷惑そうに会釈する。
駅夫日記 (新字新仮名) / 白柳秀湖(著)
目をつむると、好いにほひのするはなびらの中に魂が包まれた様で、自分の呼気いきが温かなもやの様に顔を撫でる。
菊池君 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
「大槻さんが今すぐに参りますそうで」と駅長の前に呼気いきを切りながら復命した。
駅夫日記 (新字新仮名) / 白柳秀湖(著)
死んだ祖父に当る人によく似たと、母が時々言つたが、底無しの漏斗じやうご、一升二升では呼気いきが少し臭くなる位なもの。顔色が顔色だから、少し位の酒気は見えないといふ得もあつた。
刑余の叔父 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
おとがひを埋めた首巻は、夜目にも白い呼気いきを吸つて、雪の降つた様に凍つて居た。
病院の窓 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
少なからず酔つて居るので、吐く呼気いきは酒臭い。
病院の窓 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)