周到しゅうとう)” の例文
「そうそう、ぼくは耳には塗らなかった。あぶなく耳にひびを切らすとこだった。ここの主人はじつに用意周到しゅうとうだね。」
注文の多い料理店 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
三河守はかれの周到しゅうとうな用意に驚いた面持おももちだった。いや、もっと驚いたのは、茶室の炉辺に、いつのまにか一個の狼煙玉のろしだまがおいてあったことである。
新書太閤記:04 第四分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
犯人の容易ならぬ周到しゅうとうぶりが浮んでみえるようなので、なにか手懸りを得るまでは、このカフェ・ネオンに営業を休んではならぬと言い渡してあった。
電気看板の神経 (新字新仮名) / 海野十三(著)
季節季節の種をき、花を咲かせることがクニ子にとっては時には教職と同じほどに大切であるらしく、一本一本の草や木は教え子へのような周到しゅうとうさで育てられていった。
(新字新仮名) / 壺井栄(著)
女達がその自由意志、欲情を抑え、自ら一人の犠牲者に甘んじて一つの目的に没頭ぼっとうするとき、如何なる男も彼女等以上に周到しゅうとうな才気と公平な観察を発揮することはできないものだ。
道鏡 (新字新仮名) / 坂口安吾(著)
手を焼いた前例があるし、こんどは、頼朝のいいつけも、厳重であったから、清経は、この下話したばなしには、充分周到しゅうとうな要意を胸に持って、彼女を説いた。
日本名婦伝:静御前 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
犯人は、飛行船を組立てるように、なにからなにまで周到しゅうとうの注意をはらって事件を計画しました。
省線電車の射撃手 (新字新仮名) / 海野十三(著)
万一、鳳輦の内の君が、だまでもあっては——とする彼の周到しゅうとうな注意ぶりの一つがここにもうかがわれていた。
私本太平記:12 湊川帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
と、周到しゅうとうな用意の下に、焼き草を閣上につめて、みずから焼き尽したためといわれている。
新書太閤記:09 第九分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
はしの間にも、彼は、そのさかんなる食欲と同じように、絶えまなく時務を聴き、処置を断じ、また発足ほっそく措置そちをあれこれと左右へ命じておくなど、飽くまで旺盛な気力と周到しゅうとうな頭脳を働かせていた。
新書太閤記:08 第八分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
周到しゅうとう老臣ろうしんが、臨機神速りんきしんそくな手くばりに、石見守いわみのかみざめの驚愕きょうがくもややしずまって、ほッと、そこでむねをなでおろしたかと思うと、何者なにものであろうか、大廂おおびさしのそとがわからクルリと身軽みがるにかげをかすめて
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)