可傷いたま)” の例文
服装みなりなども立派に成った。しかし以前の貧乏な時代よりは、今日の方が幸福しあわせであるとは、先生の可傷いたましい眼付が言わなかった。
家:02 (下) (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
彼はさすがに見捨てかねたる人の顔を始は可傷いたましとながめたりしに、その眼色まなざしやうやく鋭く、かつは疑ひかつは怪むらんやうに、忍びてはまもりつつ便無びんなげにたたずみけるに、いでや長居は無益むやくとばかり
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
荒廃した土塀どべいいしずえばかり残った桑畠なぞを見、離散した多くの家族の可傷いたましい歴史を聞き、振返って本町、荒町の方に町人の繁昌はんじょうを望むなら
千曲川のスケッチ (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
冷然として客舎の石の壁にむかい合っていたような三年の遠い旅の間と言わず、彼の思い続けて来たのは実際次の言葉に籠る可傷いたましい真実であった。
新生 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
蓮華寺の内部なか光景ありさま——今は丑松も明に其真相を読むことが出来た。成程なるほど、左様言はれて見ると、それとない物のはしにも可傷いたましい事実は顕れて居る。
破戒 (新字旧仮名) / 島崎藤村(著)
男らしい威厳を帯びた其容貌おもばせのうちには、何処となく暗い苦痛の影もあつて、壮烈な最後の光景ありさま可傷いたましく想像させる。見る人は皆な心を動された。
破戒 (新字旧仮名) / 島崎藤村(著)
『実に、人の一生はさま/″\ですなあ。』と銀之助はお志保の境涯きやうがいを思ひやつて、可傷いたましいやうな気に成つた。
破戒 (新字旧仮名) / 島崎藤村(著)
その日のようにえとした眼と、物も言わない口唇くちびるとは、延びよう延びようとして延びられない彼女の内部なか生命いのち可傷いたましさを語るかのようでもあった。
新生 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
それから何も物の書けないような可傷いたましい状態になって、数寄屋橋の煙草屋の二階へ帰る事になった。
北村透谷の短き一生 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
この可傷いたましい子供の失い方をした画家は、絶えず涙で、お房の苦しむ方を見ていた。
芽生 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
彼は少壮としわかな孝子で、又可傷いたましい犠牲者であった。
家:01 (上) (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
可傷いたましい記憶の残っているのも、その部屋だ。
刺繍 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
可傷いたましい眼付をした。
家:01 (上) (新字新仮名) / 島崎藤村(著)