たたき)” の例文
雨はれた、人は湯さめがしたようにあつさを忘れた、敷居を越してあふれ込んだ前の大溝の雨溜あまだまりで、しっくいたたきの土間は一面に水を打ったよう。
三枚続 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
主人は格子戸かうしどの中のたたきの上に、今帰つた客の靴を直す為めに、据ゑてある根府川石ねぶかはいしの上から、わきへいざらせたらしい千代田草履ざうりのあるのに目を着けて、背後うしろひざいてゐる女中をかへり見て問うた。
魔睡 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
しばしば跫音あしおとを立ててしっくいたたきの土間を、靴で士官の群の処へ通うのはこのボオイで、天井は高く四辺あたりはひっそり、電燈ばかり煌々こうこう真昼間まっぴるまのごとく卓子をてらして
三枚続 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
戸外おもての方は騒がしい、仏間ぶつまかたを、とお辻はいつたけれども其方そっちを枕にすると、枕頭まくらもとの障子一重ひとえを隔てて、中庭といふではないが一坪ばかりのしツくひたたき泉水せんすいがあつて
処方秘箋 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)