古市ふるいち)” の例文
いや左様ではあるまい、間の山節を昔ながらの調子で聞かすものは、古市ふるいち古けれども、今のあのお玉とやらのほかにはないということじゃ。
大菩薩峠:06 間の山の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
保元物語に見える伊勢武者のたいらの忠清は、この古市ふるいちの出生とあるが、今は、並木の茶汲み女が、慶長の古市を代表していた。
宮本武蔵:04 火の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
ところ/″\にさいた姫百合の花も周圍の單調を破つてゐた。古市ふるいちの驛を通り過ぎたところには、どつちを向いて見ても滴るやうな濃い緑ばかり。
山陰土産 (旧字旧仮名) / 島崎藤村(著)
後方あと古市ふるいちでござりませんと、旦那様方がお泊りになりまする旅籠はござりませんが、何にいたしました処で、もし、ここのことでござりまする
伊勢之巻 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
鼎は出獄後、辰之助等に善遇せられぬので、名を謙一郎と改め、堺市にうつつて商業を営み、資本を耗尽かうじんし、後に大阪府下南河内郡古市ふるいち村の誉田こんだ神社の社司となつた。
津下四郎左衛門 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
その手ぶりのよさ——わたしは最近伊勢の古市ふるいちまでいって、備前屋で音頭を見せてもらいましたが、とてもとても、幼目おさなめにのこる二人の老人のあの面白さは、面影も見ることが出来なかったのです。
「時に今晩は何うしてもやはり古市ふるいち泊りでございますか?」
ぐうたら道中記 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
そうして七里の渡しの岸頭から、伊勢の国をながむる人の心は、あいやまの賑やかな駅路と、古市ふるいちの明るいともしに躍るのである。
大菩薩峠:32 弁信の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
ゆっくり古市ふるいち逗留とうりゅうして、それこそついでに、……浅熊山あさまやまの雲も見よう、鼓ヶたけ調しらべも聞こう。
歌行灯 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
ふと、吸っている煙草入れを見ると、それも鳥取の古市ふるいちで名産としている漆革細工うるしかわざいくなので
醤油仏 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
古市ふるいちにあって、ばちを揚げて旅人の投げ銭を受けることを習わせられた手練が、おのずから心の油断を少なくしていました。
古市ふるいち名代なだいの旅店、三由屋みよしやの老番頭、次のの敷居際にぴたりと手をつき
伊勢之巻 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
読者諸君は御存じのことでしょう、伊勢の古市ふるいちあいやまにぎわいのうちに、古来ひきつづいた名物としての「お杉お玉」というものの存在を——
大菩薩峠:29 年魚市の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
内宮様ないぐうさまへ参る途中、古市ふるいちの旅籠屋、藤屋の前を通った時は、前度いかい世話になった気で、薄暗いまで奥深いあの店頭みせさきに、真鍮しんちゅう獅噛火鉢しかみひばちがぴかぴかとあるのを見て、略儀ながら、車の上から
歌行灯 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「そうそう、わたしは盗人という濡衣ぬれぎぬがまだ乾いていない身であった、古市ふるいちへ姿を見せれば、直ぐに縄目にかかる身であった、さあ故郷へは帰れない」
大菩薩峠:07 東海道の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
伊勢国古市ふるいちから内宮ないぐうへ、ここぞあいの山の此方こなたに、ともしびの淋しい茶店。
伊勢之巻 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
見世物小屋の失敗しくじりなどはかなり大きな失敗でしたけれども、それがために古市ふるいちにおける場合のように、槍を振り廻すことのなかったのはまだしもの幸いでしたが
「はい、この間の晩、古市ふるいちの備前屋という家へ、わたくしが招かれて参りました」
大菩薩峠:06 間の山の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
「わたしも急ぎましょう、今日は帰ってから古市ふるいちへ呼ばれるお約束があった」
大菩薩峠:06 間の山の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
伊勢の古市ふるいち以来、幼馴染おさななじみのお君が、今、九死の境にいる。駒井能登守にだまされて、身を誤った女であるけれども、こういう場合にこういわれてみれば、さすがに米友もひとごとではない。
大菩薩峠:21 無明の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
古市ふるいちの大楼へ招かれては、夕べあしたの鐘の声を古調で歌って聞かせる時、追っても叱ってもムクばかりは離れることもなかったのに、今宵こよい他郷で久しぶりに、三味を抱えて月にうつるわが影が