双幅そうふく)” の例文
女はおよごしになって、立て切った障子しょうじを、からりとける。内はむなしき十畳敷に、狩野派かのうは双幅そうふくが空しく春のとこを飾っている。
草枕 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
何やら双幅そうふくのかかった床の間を背に、くつろいだ御紋付きの着流し、燭台の灯にお湯あがりの頬をテラテラ光らせて、小高い膝をどっしりとならべているのは
丹下左膳:03 日光の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
六尺のえんをへだてて広い座敷には、朱の毛氈もうせんがしかれ、真白まっしろな紙がちらばっていた。澄んだ秋の空気は、座敷の隅まではいって来た。そして床の間には、漱石そうせき先生の詩の双幅そうふくがかかっていた。
南画を描く話 (新字新仮名) / 中谷宇吉郎(著)
『それじゃ一つ不用品を拝領しようか?』と言うから、『何でもお望みにまかせる』とつい釣り込まれて言葉をつがえてしまった。『雪舟の双幅そうふくが欲しい』と社長は如何にも欲しそうな声を出したよ
ガラマサどん (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
見ると、なるほど、二行の双幅そうふくに、こう書いてある。ひとつには
梅里先生行状記 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
全然似寄らぬマドンナを双幅そうふく見せろとせまると同じく、ラファエルにとっては迷惑であろう、否同じ物を二枚かく方がかえって困難かも知れぬ。
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
たたみを焼いてだんをとったり、みごとな双幅そうふくや、金蒔絵きんまきえ脇息きょうそくをたたッこわしたり、破いたり、それを燃料に野天風呂をわかすやら、ありとあらゆる乱暴狼藉らんぼうろうぜきをはたらき
丹下左膳:02 こけ猿の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
○赤石君雪舟せっしゅう双幅そうふくの事。(奇襲。呵々かか又呵々)
ガラマサどん (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
その時はめでたいからと云うので、客間のとこには必ず虎の双幅そうふくけた。これは岸駒がんくじゃない岸岱がんたいだと父が宗助に云って聞かせた事があるのを、宗助はいまだに記憶していた。
(新字新仮名) / 夏目漱石(著)
と赤石さんは床の間の双幅そうふくに目を向けた。
ガラマサどん (新字新仮名) / 佐々木邦(著)