千条ちすじ)” の例文
もとより云う事はあるのだから、何か云おうとするのだが、その云おうとする言葉が咽喉のどを通るとき千条ちすじれでもするごとくに
思い出す事など (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
ただその心臓は音するばかり、波立つごとく顫動せんどうせるに、溢敷こぼれしきたる黒髪ゆらぎて、千条ちすじくちなわうごめきぬ。
貧民倶楽部 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
おもふどちあそぶ春日はるひ青柳あおやぎ千条ちすじの糸の長くとぞおもふ 半蔵
夜明け前:04 第二部下 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
千条ちすじの烟いぶきて薫りみちぬ。
そよ風が小波立てて、沼の上を千条ちすじ百条ももすじ網の目を絞って掛寄せ掛寄せ、沈んだ跡へゆりかけると、水鳥がたごとく、芭蕉の広葉は向うのみぎわへ、するすると小さく片寄る。
沼夫人 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
いつくしき門のいしずえは、霊ある大魚の、左右さうに浪を立てて白く、御堂みどうを護るのを、もうずるものの、浮足に行潜ゆきくぐると、玉敷く床の奥深く、千条ちすじの雪のすだれのあなたに、丹塗にぬりの唐戸は、諸扉もろとびら両方に細めにひら
薄紅梅 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
烏帽子の紐の乱れかかって、胸に千条ちすじ鮮血からくれない
南地心中 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)