匕首ひしゅ)” の例文
れいか、熱か、匕首ひしゅ、寸鉄にして、英吉のその舌の根を留めようとあせったが、咄嗟とっさに針を吐くあたわずして、主税は黙ってこぶしを握る。
婦系図 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
されどもし仮に匕首ひしゅを喉に擬するとするに、何故か知らねど、少しく躊躇して、断行することあたわざる一点の理由の存するが如きを覚ゆ。
一夜のうれい (新字新仮名) / 田山花袋(著)
それはちょうど、今こうして、それがしが、万寿どのを下に敷いて、御喉おんのど匕首ひしゅをつきつけながら、あなたへ談じつけているのと同じことだ。
新書太閤記:04 第四分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「あんな所へ城を築いてしこれが陶に取られると、安芸はその胴腹に匕首ひしゅを擬せられるようなものである」と。
厳島合戦 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
めすという字にもこの偏にフルトリと書く字もあれば牛偏に匕首ひしゅの匕の字を書くのもある。このフルトリの方の女は、はたからどうでもなるが、牛と匕口あいくちの方はとても手にママえない。
生々流転 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
壮烈なるは匕首ひしゅふところにして不測のしんに入り、頑固なるは首陽山のわらびに余命をつなぎ、世を茶にしたるは竹林にひげひねり、図太づぶときは南禅寺の山門に昼寝して王法をおそれず、一々数へ来れば日も亦足らず
人生 (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
五百は幼くて武家奉公をしはじめた時から、匕首ひしゅ一口いっこうだけは身を放さずに持っていたので、湯殿ゆどのに脱ぎ棄てた衣類のそばから、それを取り上げることは出来たが、衣類を身にまといとまはなかったのである。
渋江抽斎 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
寝ているうちに、匕首ひしゅが飛んで首をさらうんだ、恐るべし……どころでない、魂魄こんぱくをひょいとつかんで、血の道の薬に持ってく。
薄紅梅 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「ここだに陥とせば、敵府建業の中核へ、まさに匕首ひしゅを刺すものである。全軍それ励めよ。大功を立つるは今ぞ」
三国志:10 出師の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
隆盛泰然として「口先では、果しがない。唯一匕首ひしゅあるのみだ」と云った。
鳥羽伏見の戦 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
匕首ひしゅを秘めて獣王へ近づき
三国志:03 群星の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)