切所せっしょ)” の例文
「もし敵に智のある者がいれば、兵をまわして、山際の切所せっしょつにきまっている。そのときご辺の五千の兵は、一人も生きては帰れないだろう」
三国志:11 五丈原の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
ああ、この痛々しい足どり——だが、今となっては誰をうらもうようもあるまい。十種香の謙信でさえが、「塩尻までは陸地くがじ切所せっしょ、油断して不覚を取るな」
大菩薩峠:22 白骨の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
即座に峠を越えて隣領に、小勢を顧みず斬り込まねばならぬ大切な切所せっしょで、それゆえにこそいわゆる頼みきったる宗徒むねとの面々を、伊達だて家でもこの辺境には置いたのである。
雪国の春 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
襖一重は一騎打いっきうちで、座敷方では切所せっしょを防いだ、其処の一段低いのも面白い。
霰ふる (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「ま。……どう行っても、難所なんしょ切所せっしょはのがれがたい山路ばかり。土地ところにあかるい者の、案内まかせといたしておる」
私本太平記:05 世の辻の帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
それから二日おいた三日目には、京都七条口から発して、丹波街道の沓掛宿くつかけじゅくから、老坂峠おいのさかとうげ切所せっしょを一散に急いで行く、由良の伝吉の姿を見出すことができる。
剣難女難 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
いわれは、久しく切所せっしょ引籠ひきこもって行蔵こうぞうをつつみ、手策てだてのなかりし柴田めも、いまみずから牢砦ろうさいを出で、勝ちにおごって遠く陣を張れるは、まさに、勝家が運の尽きよ。
新書太閤記:09 第九分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
風流にいえば千山万水だが、いよいよ彼方には二龍山、桃花山、傘蓋山さんがいざん黄泥岡こうでいこう白沙塢はくさう野雲渡やうんとなどという難所なんしょ切所せっしょやら野盗の名所が、行く先々にひかえている。
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
でも、まだ後ろを振顧ふりかえれば、八王子、小仏村、小原、駒木根あたりの灯は近く見えて、越えようとするこれから先の山容は、岸々がんがんとした難所切所せっしょを目の前に見せている。
江戸三国志 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
ここは山荘の間道かられた、但馬街道の切所せっしょへかかる峠の中腹であった。
剣難女難 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「それもよいが、こなたはこなた、かねてしめし合わせておいた通り、地の利を峠の上に占めて、切所せっしょ難所に兵を伏せさせ、いつなりと慌てぬよう、ともあれ、布陣を先にしておく方が肝要であろうよ」
私本太平記:05 世の辻の帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
それは淡河おうごの南約一里ほど先に見える丹生山にぶやま切所せっしょ
黒田如水 (新字新仮名) / 吉川英治(著)