凄然せいぜん)” の例文
洞庭劉氏の詩を三誦してよりのちまた月余、或るゆふべ身に秋冷をおぼえて自ら秋衣をさぐるに事によりてわが思ひ凄然せいぜんたるものあり。
つまり、ただモラルがない、ただ突き放す、ということだけで簡単にこの凄然せいぜんたる静かな美しさが生れるものではないでしょう。
文学のふるさと (新字新仮名) / 坂口安吾(著)
で其處らの物象が、荒涼といふよりは、索寞として、索寞といふよりは、凄然せいぜんとして、其處に一種人を壓付おしつけるやうな陰鬱な威力があツた。
解剖室 (旧字旧仮名) / 三島霜川(著)
『三峯山誌』の記するところによれば、御眷属ごけんぞく子を産まんとする時は、必ず凄然せいぜんたる声を放って鳴く。心ぐなる者のみこれを聴くことを得べし。
山の人生 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
雪之丞は、そう凄然せいぜんたるこえで呼びかけると、深くうつむいて、しばし荒い息をしたが、サッと、振り上げた顔——
雪之丞変化 (新字新仮名) / 三上於菟吉(著)
さまざまな方向に走っている深い峡谷は、あたりの風景にいっそう凄然せいぜんとした森厳の趣をそえているのであった。
黄金虫 (新字新仮名) / エドガー・アラン・ポー(著)
凄然せいぜんたるつきへいうへくぎ監獄かんごく骨燒場ほねやきばとほほのほ、アンドレイ、エヒミチは有繋さすが薄氣味惡うすきみわるかんたれて、しよんぼりとつてゐる。と直後すぐうしろに、ほつばか溜息ためいきこゑがする。
六号室 (旧字旧仮名) / アントン・チェーホフ(著)
と悟るに付けて斯様な草深い田舎に身柄と云い器量と云い天晴あっぱれ立派な主人が埋められかかったのを思うと、凄然せいぜん惻然そくぜんとして家勝も悲壮の感に打たれない訳には行かなかったろう。
蒲生氏郷 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
と一句凄然せいぜん、お銀はひらりと身をひるがえし、帯の間へ手を入れると何かキラリと閃めいた。
蔦葛木曽棧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
客心何事ぞうた凄然せいぜん
老残 (新字旧仮名) / 宮地嘉六(著)
凄然せいぜんたるつきへいうえくぎ監獄かんごく骨焼場ほねやきばとおほのお、アンドレイ、エヒミチはさすがに薄気味悪うすきみわるかんたれて、しょんぼりとっている。と直後すぐうしろに、ほっとばかり溜息ためいきこえがする。
六号室 (新字新仮名) / アントン・チェーホフ(著)
さうしてそのなかには醜さといふよりもむしろ故もなく凄然せいぜんたるものがあつた。この家の新らしい主人は、木の蔭に佇んで、この廃園の夏に見入つた。さて何かにおびやかされてゐるのを感じた。
わたしは恋を封じられております」それは凄然せいぜんたる声であった。
神州纐纈城 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)