冬青もち)” の例文
そう云う蟻には石燈籠いしどうろうの下や冬青もちの木の根もとにも出合った覚えはない。しかし父はどう云うわけか、全然この差別を無視している。……
少年 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
かしかしは冬青もち木犀もくせいなどの老木の立ち込んだ中庭は狹いながらに非常に靜かであつた。ことごとしく手の入れてないまゝに苔が自然に深々とついてゐた。
鳳来寺紀行 (旧字旧仮名) / 若山牧水(著)
あざやかに潤いがあるとでも言ったらよいか。藪から乗り出した冬青もちの木には赤い実が沢山なってる。渋味のある朱色しゅいろでいや味のない古雅な色がなつかしい。
隣の嫁 (新字新仮名) / 伊藤左千夫(著)
留りては裂き、行きては裂き、裂きて裂きて寸々すんずんしけるを、又引捩ひきねぢりては歩み、歩みては引捩りしが、はや行くもくるしく、後様うしろさま唯有とあ冬青もちの樹に寄添へり。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
背後にいたんだもみの並木があり、そして前には樹立した水松いちゐ冬青もちの藪のある野原のやうな土地が少し許りあるこの崩れかけた屋敷だけだといふ事が分つたのですから。
えとほるほどろの霜や冬青もちの葉の垂り葉の光ゆらぎみたる
白南風 (旧字旧仮名) / 北原白秋(著)
そこは突き当りの硝子障子ガラスしょうじそとに、狭い中庭をかせていた。中庭には太い冬青もちの樹が一本、手水鉢ちょうずばちに臨んでいるだけだった。
お律と子等と (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
私は手探りをつゞけた、するとまた何か白つぽいものが私の前に光つた。門——小さな門であつた。押してみると蝶番てふつがひが開いた。黒つぽい茂みが兩側にある——冬青もち水松いちゐらしい。
えとほるほどろの霜や冬青もちの葉の垂り葉の光ゆらぎみたる
白南風 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
僕は時々狭い庭を歩き、父の真似まねをして雑草を抜いた。実際庭は水場だけにいろいろの草を生じやすかった。僕はある時冬青もちの木の下に細い一本の草を見つけ、早速それを抜きすててしまった。
追憶 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
冬青もちの葉に雪のふりつむ声すなりあはれなるかも冬青もちの青き葉
雲母集 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
新しい僕の家の庭には冬青もちかや木斛もっこく、かくれみの、臘梅ろうばい、八つ手、五葉の松などが植わっていた。僕はそれらの木の中でも特に一本の臘梅を愛した。が、五葉の松だけは何か無気味でならなかった。
追憶 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
冬青もちの葉に走る氷雨ひさめの音聽けば日のくれぐれはよくはじくなり
白南風 (旧字旧仮名) / 北原白秋(著)
冬青もちの葉に走る氷雨ひさめの音聴けば日のくれぐれはよくはじくなり
白南風 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
冬青もちの木も雪をゆすれり椎の木も雪をゆすれり寂しき朝明あさけ
雲母集 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
さかなさげてものいふお作冬青もちの木の下にしまらく輝きにけれ
雲母集 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
深藪の中に実赤き冬青もちの木のその実をたべて啼けり鵯の子
雀の卵 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)