八丈はちじょう)” の例文
達弁にまくし立てるお染の蔭から、高貴な感じのするほど美しいお雛が、八丈はちじょうたもと爪繰つまぐるように、おどおどした顔で平次を見守ります。
あらい八丈はちじょうの羽織を長く着て、素足すあし爪皮つまかわのなかへさし込んで立った姿を、下宿の二階窓から書生が顔を二つ出して評している。
野分 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
芭蕉には島流しの流人るにんの生活を、句にしたものの多いこともちょっと有名であるが、是なども貞享じょうきょう・元禄のこうが、殊に三宅みやけ八丈はちじょうを刑罰に利用した時代であり
木綿以前の事 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
人々は「結城ゆうき」と云い、「大島おおしま」と云い、「八丈はちじょう」と云う。すべてが郷土を記念する呼び方である。
工芸の道 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
つぶしに大きな平打ひらうち銀簪ぎんかんざし八丈はちじょう半纏はんてん紺足袋こんたびをはき、霜やけにて少し頬の赤くなりし円顔まるがお鼻高からず、襟白粉えりおしろい唐縮緬とうちりめん半襟はんえりの汚れた塩梅あんばい、知らざるものは矢場女やばおんなとも思ふべけれど
桑中喜語 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
しきりに話をしているのを、なんだかごた/\していると思って、そっと障子しょうじを明けて見たのは、春見の娘おいさで、唐土手もろこしで八丈はちじょうの着物に繻子しゅすの帯を締め、髪は文金ぶんきん高髷たかまげにふさ/\といまして
「ああ、布団だけはここへ買って来たが、御蔭おかげで大変遅れてしまったよ」と包みのなかから八丈はちじょうまがいの黄なしまを取り出す。
虞美人草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
そうかと思うと離れ島の八丈はちじょうには、黄色い立派な織物が描いてあったりするのを見出します。この本はそういう地図を皆さんにお見せするために書かれるのであります。
手仕事の日本 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
しかも私の見たところでは、三宅みやけ八丈はちじょうかとにかくに伊豆いずの島々のうちであった。
木綿以前の事 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
八丈はちじょうの島で種姥たねうばといい、または「かこみにょこ」とも謂って、大津波の折に櫓を抱いて、たったひとり命をまっとうしたと伝えられる女性などは、その時身ごもっていて後に男の子を生んだ故に
木綿以前の事 (新字新仮名) / 柳田国男(著)