兢々きょうきょう)” の例文
されば川島家はつねに戒厳令のもとにありて、家族は避雷針なき大木の下に夏住むごとく、戦々兢々きょうきょうとして明かし暮らしぬ。
小説 不如帰  (新字新仮名) / 徳冨蘆花(著)
新宿八王子間の電車線路工事が始まって、大勢の土方どかたが入り込み、村は連日れんじつ戒厳令のもとにでも住む様に兢々きょうきょうとして居る。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
心のなかで彼をのろうべき苦い理由を持たなかった所がいずこにあったか? 不可解な彼の暴虐ぼうぎゃくから、私はとうとう戦々兢々きょうきょうとして疫病えきびょうから逃げるように逃げた。
あたかも一握りの黄金を握りしめてる吝嗇りんしょく家のように、戦々兢々きょうきょうとして自分だけを守ってる愛情だった。
こうなれば、戦々兢々きょうきょうと、古い名声にかじりついている大家たちも、気楽に新しいものが書けるかも知れず、新進無名もいじけることなしに全力が発揮できるだろう。
胡堂百話 (新字新仮名) / 野村胡堂(著)
今日は某の貴族が襲われたと、噂は噂を産んで、都の人心は兢々きょうきょうとして安き日もなかったのです。
黒手組 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
ただ恐ろしいことには、戦々兢々きょうきょうとしている。その恐怖の念は、反徒らに対するひどい冷淡さを宥恕ゆうじょするものである。また酌量すべき情況としては狼狽の念もいっしょにある。
と、会わないうちからひどくおそれた。曹彰は操の次男で、兄弟中では武剛第一の男である。察するに、王位を争わんためではないかと、曹丕は邪推して兢々きょうきょうと対策を考え始めた。
三国志:10 出師の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
岩見いわみ武勇伝に出て来る鎮守ちんじゅの神——その正体は狒々ひひである——の生贄いけにえとして、白羽しらはの矢を立てられはせぬかと、戦々兢々きょうきょうたる娘、及び娘を持てる親たちのような恐れと、哀れとを
海に生くる人々 (新字新仮名) / 葉山嘉樹(著)
権謀詭計けんぼうきけいの借拠みたいなものにしてしまって、下の者はまた、いつ不孝という名目のもとに殺されるかわからないので、日夕兢々きょうきょうとして、これ見よがしに大袈裟に親を大事にして
惜別 (新字新仮名) / 太宰治(著)
常に家にありてわずかに貯えた物を護るに戦々兢々きょうきょう断間たえまなく、いささかの影をも怖れ人を見れば泥棒と心得吠え立つるも、もとこの二十年は犬から譲り受けたのだから当然の辛労である。
居士自身ばかりでなく家族の方々や我々まで戦々兢々きょうきょうとして病床に侍していた。
子規居士と余 (新字新仮名) / 高浜虚子(著)
高麗丸船上から、この朝、私たちが瞥見べっけんした、あの濛々もうもうたる黒煙を吐いていた五、六本の大煙突の立つ真岡工業会社の内部に、私たちは今まさに、兢々きょうきょう然たる胎内くぐりをやっているのだ。
フレップ・トリップ (新字新仮名) / 北原白秋(著)
定家は神経質で立身出世をねがいつつ権力者の意向に兢々きょうきょうとしていた男だが
中世の文学伝統 (新字新仮名) / 風巻景次郎(著)
向井湯の主人も、命ぜられて兢々きょうきょうと一同の後に続いて昇って行った。
電気風呂の怪死事件 (新字新仮名) / 海野十三(著)
と、お雪の胸が兢々きょうきょうとしました。
大菩薩峠:29 年魚市の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
テーブルの上には珈琲碗かひわん四つ五つ、菓子皿はおおむねたいらげられて、ただカステーラの一片がいづれの少将軍にほふられんかと兢々きょうきょうとして心細げに横たわるのみ。
小説 不如帰  (新字新仮名) / 徳冨蘆花(著)