先蹤せんしょう)” の例文
一茶調の先蹤せんしょうをなすことは、野紅の名誉ではないかも知れぬ。ただし一茶としてはどうしても野紅に功を譲らなければなるまいと思う。
古句を観る (新字新仮名) / 柴田宵曲(著)
雲崗石窟うんこうせっくつの遺品によって見れば、我々が推古彫刻の先蹤せんしょうとして考えている北魏式彫像は、実は北魏美術の一半に過ぎぬ。
日本精神史研究 (新字新仮名) / 和辻哲郎(著)
すでに自然主義運動の先蹤せんしょうとして一部の間に認められているごとく、樗牛ちょぎゅうの個人主義がすなわちその第一声であった。
最初北条方の考では源平の戦に東軍の勝となっている先蹤せんしょうなどを夢みて居たかも知れぬが、秀吉は平家とは違う。
蒲生氏郷 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
バアクの所説の中心点は次の如くである、——およそ英国における一切の改革は過去の先蹤せんしょうを典拠として行われたのであり、またそうあるのが当然である。
インカの先蹤せんしょうなど、もうこの時代に、それだけになっていたのかと思わすのも、ちょっと面白いであろう。
映画『人類の歴史』 (新字新仮名) / 中谷宇吉郎(著)
古人の先蹤せんしょうを追った歌舞伎十八番のようなものでも椿岳独自の個性がおのずから現われておる。
神明仏菩薩ぼさつ勇士高僧の多くが岩石などの上に不朽の跡を遺して、永く追慕を受けている国であった。いわば山人思想の宗教化ということには、正しく先蹤せんしょうがあったのである。
山の人生 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
日本はシナ文化の先蹤せんしょうを追うて来たのであるから、この茶の三時期をことごとく知っている。早くも七二九年聖武しょうむ天皇奈良ならの御殿において百僧に茶を賜うと書物に見えている。
茶の本:04 茶の本 (新字新仮名) / 岡倉天心岡倉覚三(著)
今こそ先蹤せんしょうの求めたるところをわれまた求めんという、一大勇猛心を起し、次の幕あいには逸速く席を立って廊下に出て、人生に於ける遭遇、機縁なるものの何処に秘められているかは
メフィスト (新字新仮名) / 小山清(著)
「あれはまさに徳川夢声の先蹤せんしょうをなすものだったねぇ」
艶色落語講談鑑賞 (新字新仮名) / 正岡容(著)
「何時分」という語で結ぶ句がいくつもあるのは偶然であるか、どれかの先蹤せんしょうならったものであるか、その辺はよくわからない。
古句を観る (新字新仮名) / 柴田宵曲(著)
唐の弘法寺ぐほうじの僧の釈迦才しゃくかさいの浄土論中に、安楽往生者二十人を記したのにならったものであるが、保胤往生の後、大江匡房おおえのまさふさは又保胤の往生伝の先蹤せんしょうを追うて、続本朝往生伝をせんしている。
連環記 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
百余年という数はいささか漠然としているから、亀洞の句もいずれに属するかわからぬが、「お多賀杓子の荒けづり」は已に先蹤せんしょうがあるわけである。
古句を観る (新字新仮名) / 柴田宵曲(著)
如是因にょぜいん如是縁にょぜえん、如是因、如是縁、と繰返してって、如何にしても縁というものは是非の無いものと見えまする、聖人賢人でも気に入らぬ妻は離別された先蹤せんしょうさえござる、まして我等は、と云って
連環記 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)