充満みちみ)” の例文
旧字:充滿
これなりとは聞召きこしめしたりけれど、いきおい既に定まりて、削奪の議を取る者のみ充満みちみちたりければ、高巍こうぎの説も用いられてみぬ。
運命 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
空を眺むる宮が目のうちにはゆらんやうに一種の表情力充満みちみちて、物憂さの支へかねたる姿もわざとならず。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
その途端に闇がさつと裂けると、驚いたことには無数の神兵が、雲の如く空に充満みちみちて、それが皆槍や刀をきらめかせながら、今にもここへ一なだれに攻め寄せようとしてゐるのです。
杜子春 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
這って来る者、跛行びっこをひいて来る者、負われて来る者、抱かれて来る者——馬頭観音の堂をめぐって充満みちみちている上洛の美々しい行装の将士とくらべて——これは、おかしいような奇観であった。
新書太閤記:05 第五分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
燻臭いぶりくさき悪気は四辺あたり充満みちみちて、踏荒されし道は水にしとり、もえがらうづもれ、焼杭やけくひ焼瓦やけがはらなど所狭く積重ねたる空地くうちを、火元とて板囲いたがこひ得為えせず、それとも分かぬ焼原の狼藉ろうぜきとして
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
その途端に闇がさっと裂けると、驚いたことには無数の神兵が、雲の如く空に充満みちみちて、それが皆やりや刀をきらめかせながら、今にもここへ一なだれに攻め寄せようとしているのです。
杜子春 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
「——なんというた。日向ひゅうが。たった今、なんというたか。——われら、骨折りたるかいあって、この甲州に織田家の兵馬が充満みちみちて見ゆるは、まことにめでたい日であるとな。——左様に申したであろうが」
新書太閤記:06 第六分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
得言はぬ貫一が胸には、ことわりに似たる彼の理不尽を憤りて、責むべき事、なじるべき事、ののしるべき、言破るべき事、はぢしむべき事の数々はくが如く充満みちみちたれど、彼は神にもまされる恩人なり。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)