乱離らんり)” の例文
旧字:亂離
そして、先に乱離らんりとなった原士の方も駈けあわせてきて、捲土重来けんどちょうらいの手ぐすねをひき、ふたたび疲れた弦之丞を危地へ誘い込もうとする。
鳴門秘帖:03 木曾の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「されば、御使みつかいなくとも、つとにわれから上洛すべきでしたが、戦後なお鎌倉は乱離らんりの状です。なにとぞ、ここ数日のご猶予をばお願い申しあげまする」
私本太平記:10 風花帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
とわかったので、朝霧の引くように、全軍の関東勢が乱離らんりとなって逃げ薄れたのはぜひもない。しかし副将足利高氏の上流軍は、まだ健在のはずである。
私本太平記:08 新田帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
途々みちみち乱離らんりとして、往来に焼け倒れている民家の火のはりも、焔のうずも、彼の行くをさまたげることはできなかった。
新書太閤記:04 第四分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
しもとならべて、つきかかるやりも、乱離らんりとなって折れとんだ。葵紋あおいもん幔幕まんまくへ、きりのような、血汐ちしおッかけて、見るまに、いくつかの死骸しがい虚空こくうをつかむ。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
焼け色の石燈籠もまだ乱離らんりの状態だ。境内の地上は一歩一歩に、それ以前の巨木の焦げた根コブを残していて、なお戦災の日をまざまざと偲ばせるものがある。
随筆 新平家 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
たちまちおこる胡蝶こちょうの陣。かけくる敵の足もとをはらって、乱離らんり、四めんぎたおす。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
退くにしては、古街道の山路はせまく、それにまた、あとからあとから押してくる味方ともぶつかりあった。で勢い、四分五裂、上へ下へ、蜘蛛くもの子のような乱離らんりをみせだしていた。
私本太平記:12 湊川帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
みずから乱離らんり経巻きょうかんほぐれをかぶって、深く沈み、息をこらしておいでになった。
私本太平記:04 帝獄帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
たちまち、乱離らんりの白刃に、わッと揚がる動揺どよごえ、不具の虚無僧と女虚無僧は、背中合せに、互の身をかばい合いながら、七、八人の荒くれ武士を向うに廻して、きっと構えをつけ澄ます。
剣難女難 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
十合とも太刀打ちせずに潘璋は逃げはしった。追いまくって密林の小道へ迫りかけた時、四方の巨木から乱離らんりとしてかぎのついた投縄なげなわ分銅ふんどうが降った。関羽の駒はまた何物かに脚をからまれていなないた。
三国志:10 出師の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
その太刀やその長巻の大きな刃は、当るものを乱離らんりと払いながら
上杉謙信 (新字新仮名) / 吉川英治(著)