一幕ひとまく)” の例文
今夜、わたしは、その最後の一幕ひとまくを見たのです。そのせまい小路で、その女は死のやまいにとりつかれて、寝台しんだいの上に横になっていました。
遠くの騒ぎ唄、富貴ふうき羨望せんぼう、生存の快楽、境遇の絶望、機会と運命、誘惑、殺人。波瀾はらんの上にも脚色の波瀾を極めて、遂に演劇の一幕ひとまくが終る。
すみだ川 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
いよ/\辞職と決したのでこの十七日に氏の御名残おなごり狂言がコメデイ・フランセエズ座で催され、氏の得意おはこの物を一幕ひとまくづゝ出し、ムネ・シユリイ其他そのたの名優が一座するはずである。
巴里より (新字旧仮名) / 与謝野寛与謝野晶子(著)
この一幕ひとまくの「竜虎図」は全く勝敗がないと言っていいくらいのものだが、見物人は満足したかしらん、たれも何とも批評するものもない。そうして阿Qは依然として仕事に頼まれなかった。
阿Q正伝 (新字新仮名) / 魯迅(著)
事実よりも明暸めいりょうな想像の一幕ひとまくを、描くともなく頭の中に描き出した津田は、突然ぞっとして我に返った。もしそんな馬鹿げた立ち廻りが実際生活の表面に現われたらどうしようと考えた。
明暗 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
この生駒の滝を背景とした血なまぐさいなぞにみちた一幕ひとまくこそ、やがて春木清が少年探偵長として全世界へ話題をなげた奇々怪々なる「黄金おうごんメダル事件」へ登場するその第一幕であったのだ。
少年探偵長 (新字新仮名) / 海野十三(著)
野外、水中舞踊の一幕ひとまくだ。
地獄風景 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
遠くのさわうた富貴ふうき羨望せんばう、生存の快楽、境遇きやうぐうの絶望、機会と運命、誘惑、殺人。波瀾はらんの上にも脚色きやくしよく波瀾はらんきはめて、つひに演劇の一幕ひとまくが終る。
すみだ川 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
「おかみさん。湯に行って暖たまってよう。今日は一日いちんちらく休みだ。」と兼太郎は夜具を踏んで柱のくぎ引掛ひっかけた手拭を取り、「大将はもう芝居かえ。一幕ひとまくのぞいて来ようかな。」
雪解 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
ちやうさん、帰るのか。いゝぢやないか。もう一幕ひとまく見ておいでな。」
すみだ川 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)