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ゆふかん
すると
其時夕刊の
紙面に
落ちてゐた
外光が、
突然電燈の
光に
變つて、
刷の
惡い
何欄かの
活字が
意外な
位鮮に
私の
眼の
前へ
浮んで
來た。
良人はいつもの通り、ポケツトから
夕刊を取出すと、それを
茶の
室の電燈の明りで読んでゐたが、やがて風呂へ入つた。
しかしその
電燈の
光に
照らされた
夕刊の
紙面を
見渡しても、やはり
私の
憂鬱を
慰むべく
世間は
餘りに
平凡な
出來事ばかりで
持ち
切つてゐた。
私は
外套のポケットへぢつと
兩手をつつこんだ
儘、そこにはひつてゐる
夕刊を
出して
見ようと
云ふ
元氣さへ
起らなかつた。