さお)” の例文
すると弟はまっさおな顔の、両方のほおからあごへかけて血に染まったのをあげて、わたくしを見ましたが、物を言うことができませぬ。
高瀬舟 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
みつは、少年しょうねんのたおれているところへきました。ると、その顔色かおいろさおになっています。そして、くるしそうにいきをしていました。
波荒くとも (新字新仮名) / 小川未明(著)
目が血ばしって赤く、くちびるがまっさおだった。くびから胸にかけて、黒い血が凝固していた。頭にも胸にもももにもほんとうの毛が植えてあった。
悪霊物語 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
と、肩に大きな波を打たせて、さおになった目明しの万吉、ののしるごとく、叱るごとく、こう呶鳴りつつ涙は頬をボロボロと流れてくる。
鳴門秘帖:02 江戸の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
けれども今日は、こんなにそらがまっさおで、見ているとまるでわくわくするよう、かれくさもくわばやしの黄いろのあしもまばゆいくらいです。
イーハトーボ農学校の春 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
両国の「大平だいへい」に売っている月耕げっこう年方としかた錦絵にしきえをはじめ、当時流行の石版画せきばんえの海はいずれも同じようにまっさおだった。
少年 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
けれどどろんとさお気味悪きみわるくよどんだみずそこには、どんな魔物まものんでいるかれないとおもうと、おじけがついて、度々たびたびみかけては躊躇ちゅうちょしました。
鉢かつぎ (新字新仮名) / 楠山正雄(著)
晴れ渡った海はじーっと視つめるとひとみの前が黒ずんで来るほどさおいで、船の煙さえ動かないような感じであるが、それでも時たまそよ風を運んで来るらしく
蓼喰う虫 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
この時、私達の耳元で、恐しい野獣の様なうなり声が聞えた。振り向くと、矢島五郎が、鼻の頭をびっしょりと汗で濡らし、真っさおになりながら唇を噛み締めて地団駄じたんだ踏んでいる。
カンカン虫殺人事件 (新字新仮名) / 大阪圭吉(著)
まんまるな顔の輪郭りんかく、近眼鏡のおくにぎらりと光る眼、真赤な厚いくちびるりあとのさおほおの肉、そうしたものが、組みあわさってできあがる大河の笑顔には、一種異様な表情があった。
次郎物語:05 第五部 (新字新仮名) / 下村湖人(著)
私の顔は、きっと、死んだ人のように、まっさおになっていたことでしょう。
堆くもり上るように伸びかわした大きな葉の水々しさを、濃淡を、晴れ切ったさおな空の下に遠くのぞむのもよければ、冬、素枯すがれつくしたあとの褐色のふとい茎のかげをひたしてめたくひろがった水
上野界隈 (新字新仮名) / 久保田万太郎(著)
その物がたりは、こんどは本部の人々の顔をまっさおにかえた。
宇宙戦隊 (新字新仮名) / 海野十三(著)
真っさおになって手足ばかり震わせているのです。
墓が呼んでいる (新字新仮名) / 橘外男(著)
「ときどきおそろしい電気でんきとおると、わたし顔色かおいろさおになるのだ。みんなこの傷口きずぐち針線はりがねでつつかれたあとさ。」といいました。
電信柱と妙な男 (新字新仮名) / 小川未明(著)
炭火すみびはチラチラ青いほのおを出し、まどガラスからはうるんだ白い雲が、ひたいもかっといたいようなまっさおなそらをあてなくながれていくのが見えました。
耕耘部の時計 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
ジッと見おろしていた伊部熊蔵いのべくまぞうが、こうさけんで待ちうけていると、そこへ小頭こがしら雁六がんろく、どうしたのかさおになって、いきをあえぎながらのぼってきた。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
それらの会話を聞く内に、私は最早もはやじっと坐っているに耐えなくなりました。多分私の顔はまっさおであったことでしょう。これですっかり事情が分りました。
覆面の舞踏者 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
天子てんしさまはじめお役人やくにんたちはびっくりしました。こんどこそは晴明せいめいがしくじったとおもいました。そばについていたおとうさんの保名やすなさおになって、息子むすこのそでをきました。
葛の葉狐 (新字新仮名) / 楠山正雄(著)
出様によっては暴力にもうったえかねまじき気味合なので佐助が割って這入はいりようようその場を預かって帰した春琴はさおになってふるえ上り沈黙ちんもくしてしまったが最後まで謝罪の言葉を
春琴抄 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
その穂は僕等の来た時にはまだすっかり出揃でそろわなかった。出ているのもたいていはまっさおだった。が、今はいつのまにかどの穂も同じように狐色きつねいろに変り、穂先ごとにしずくをやどしていた。
海のほとり (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
あんずやすももの白い花がき、ついでは木立こだちも草地もまっさおになり、もはや玉髄ぎょくずいの雲のみねが、四方の空をめぐころとなりました。
雁の童子 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
「やあ、おまえさんの顔色かおいろさおじゃ。まあ、その傷口きずぐちはどうしたのだ。」と、電信柱でんしんばしらかおてびっくりしました。
電信柱と妙な男 (新字新仮名) / 小川未明(著)
真ッさおな北越の海が目の前にひらけました。沖に、煙草色たばこいろの帆を張った、一そう南蛮船なんばんせんがかかっている。
江戸三国志 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
とおばあさんは金切かなきごえげて、一生懸命いっしょうけんめいしました。そしてやっとのことで、半分はんぶんんだようにまっさおになって、うちの中にかけみますと、おじいさんはびっくりして
舌切りすずめ (新字新仮名) / 楠山正雄(著)
「大森の海だってまっさおだあね。」
少年 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
きたうみいろさおで、それに夕焼ゆうやけのあかいろながしたようにいろどってうつくしさはたとえるものがなかったのです。
夕焼け物語 (新字新仮名) / 小川未明(著)
そのうちに木は芽を出して森はまっさおになりました。すると、木につるした板きれから、たくさんの小さな青じろい虫が糸をつたって列になって枝へはいあがって行きました。
グスコーブドリの伝記 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
うららかないいお天気てんきで、まっさおうみの上には、なみ一つちませんでした。稲妻いなづまはしるようだといおうか、るようだといおうか、目のまわるようなはやさでふねは走って行きました。
桃太郎 (新字新仮名) / 楠山正雄(著)
ほかの子供こどもらは、そのことにはづかなかった。すると、たちまちその子供こども顔色かおいろさおわってきました。
灰色の姉と桃色の妹 (新字新仮名) / 小川未明(著)
この公園もおかになっている。白樺しらかばがたくさんある。まっさおな小樽わんが一目だ。軍艦ぐんかんが入っているので海軍にははたも立っている。時間があれば見せるのだがと武田たけだ先生が云った。
或る農学生の日誌 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
あとの二人ふたりは目のまえ自分じぶん仲間なかまうまになってしまったので、自分じぶんたちもいずれおなじめにあうのだろうとおもうと、きたそらはないので、さおかおをして、ぶるぶるふるえていました。
人馬 (新字新仮名) / 楠山正雄(著)
みんなは不思議ふしぎおもって、かおげて、そら見上みあげようとしますと、さおうみのおもてに、三つのくろ人間にんげんかげが、ぼんやりとかんでいるのがえたのです。
黒い人と赤いそり (新字新仮名) / 小川未明(著)
さっきまでまっさおで光っていたその空がいつかまるでねずみいろににごって大へんくらく見えたのです。樹はゆさゆさとゆすれ大へんにむしあつくどうやら雨がって来そうなのでした。
といいながら、さおかおをして往来おうらいたおれかかりました。さむらいたちはびっくりして、どこかにみずはないかとあわててさがまわりましたが、そこらには井戸いどもなし、ながれもありませんでした。
一本のわら (新字新仮名) / 楠山正雄(著)
あるのこと、猟師りょうしたちが、いくそうかの小舟こぶねっておきていきました。さお北海ほっかい水色みずいろは、ちょうどあいながしたように、つめたくて、うつくしかったのであります。
黒い人と赤いそり (新字新仮名) / 小川未明(著)
天の子供こどもらは夢中むちゅうになってはねあがりまっさお寂静印じゃくじょういんの湖の岸硅砂きしけいしゃの上をかけまわりました。そしていきなり私にぶっつかりびっくりしてびのきながら一人が空をしてさけびました。
インドラの網 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
っている主人しゅじんもおとも家来けらいたちも、さおになりました。うまのくらをはずして、みずましたり、なでさすったり、いろいろにいたわっていましたが、うまはどうしてもかえりませんでした。
一本のわら (新字新仮名) / 楠山正雄(著)
いまは、ああしてどのても、さおだけれど、やがてあきになると、あのが、みんなきれいにいろがつく、そうなるとあぶないから、きっとうえにとまってはならぬぞ。
三匹のあり (新字新仮名) / 小川未明(著)
まっさおになってぴたっとこっちへ曲げていたからだを、まっすぐになおしました。
シグナルとシグナレス (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
あちらのそらは、さおうみいろをし、また片方かたほうそらで、しずみかけていました。
天女とお化け (新字新仮名) / 小川未明(著)
ところがきょうも二時間目ころからだんだん晴れてまもなく空はまっさおになり、日はかんかん照って、おひるになって一、二年が下がってしまうとまるで夏のように暑くなってしまいました。
風の又三郎 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
わたすかぎり、くさ灌木かんぼくしげった平原へいげんであります。さおそらは、奥底おくそこれぬふかさをゆうしていたし、はるかの地平線ちへいせんには、砲煙ほうえんともまがうようなしろくもがのぞいていました。
戦友 (新字新仮名) / 小川未明(著)
慶次郎けいじろうの顔を見ましたらやっぱりまっさおくちびるまでかわいて白くなっていました。私は役人に縛られたときとったきのこたせられて町を歩きたくないと考えました。そこでそっと慶次郎に云いました。
二人の役人 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
二人ふたりは、一つの砂山すなやまがりますと、もう、まえには、さおうみが、がっていました。そしてなみおとが、なくこっています。うみにも、夕日ゆうひ赤々あかあかとさしていました。
女の魚売り (新字新仮名) / 小川未明(著)
下流かりゅうのまっさおな水の上に、朝日橋あさひばしがくっきり黒く一れつうかび、そのらんかんの間を白い上着うわぎを着た騎兵たちがぞろっとならんで行きました。馬の足なみがかげろうのようにちらちらちらちら光りました。
イギリス海岸 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
しかして、それが、しずまったときに、そのさおみずおもてには、少年しょうねんしろかおがありありとうつって、じっと三郎さぶろうかおつめて、おとなくわらったかとおもうと、たちまちえてしまいました。
空色の着物をきた子供 (新字新仮名) / 小川未明(著)
「あ、馬出はる、馬出はる。押えろ 押えろ。」一郎はまっさおになって叫びました。じっさい馬はどての外へ出たのらしいのでした。どんどん走って、もうさっきの丸太の棒を越えそうになりました。
風の又三郎 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
さよはそのまちなかあるいてきますと、まえたか建物たてものがありました。それは時計台とけいだいで、とううえおおきな時計とけいがあって、その時計とけいのガラスにつきひかりがさして、その時計とけいさおえていました。
青い時計台 (新字新仮名) / 小川未明(著)
それでも空はまっさおに晴れていました。
シグナルとシグナレス (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)