扇子せんす)” の例文
あいちやんはたゞちにれが扇子せんすつて所爲せいだとことつていそいで其扇子そのせんすてました、あだかちゞむのをまつたおそれるものゝごとく。
愛ちやんの夢物語 (旧字旧仮名) / ルイス・キャロル(著)
いくらフロツクに緋天鳶絨ひびろうどのチヨツキを着て由兵衛奴よしべゑやつこの頭を扇子せんすで叩いてゐたつて、云ふ事まで何時いつでも冗談じようだんだとは限りやしない。
南瓜 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
それから、これもきまったように、美男子である。そうして、きっと、おしゃれである。扇子せんすを袴のうしろに差して来る人もある。
散華 (新字新仮名) / 太宰治(著)
仔細に検査したら、そこらをあるいている女のかんざしも扇子せんすも、男の手拭も団扇うちわも、みな歌舞伎に縁の離れないものであるかも知れない。
島原の夢 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
悪い男云々うんぬんを聴きとがめて蝶子は、何はともあれ、扇子せんすをパチパチさせてっ立っている柳吉を「この人わての何や」と紹介しょうかいした。
夫婦善哉 (新字新仮名) / 織田作之助(著)
「は……」と、啓之助が取り散らした懐紙や扇子せんすなどをあわてて身につけている間に、三位卿は行燈あんどんを吹ッ消して、すたすたと廊下へ出た。
鳴門秘帖:04 船路の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「のどがかわいて、しかたがありませんのですが、このへんみずはありませんでしょうか。」と、薬売くすりうりは扇子せんす指頭ゆびさきでいじりながらいいました。
薬売り (新字新仮名) / 小川未明(著)
この言葉の間に、二人の間の殺気は、自から銷沈しょうちんした。闇太郎の姿は、静かな立ち姿に変り、武士の扇子せんすは、下げられた。
雪之丞変化 (新字新仮名) / 三上於菟吉(著)
「お前が刃物だといったのは、この扇子せんすだよ。恐ろしい時には、物が間違って見える。きっとあの泥棒もこれを刃物だと思ったにちがいない……」
死体蝋燭 (新字新仮名) / 小酒井不木(著)
彼はイギリス人からきいた言葉を心覚えに自分の扇子せんすに書きつけて置いて、その次ぎの会見のおりには、かなり正確にその英語を発音したという。
夜明け前:01 第一部上 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
鳥打帽とりうちぼうしなびた上へ手拭てぬぐいの頬かむりぐらいでは追着おッつかない、早や十月の声を聞いていたから、護身用の扇子せんすも持たぬ。
栃の実 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
爺さんは煙管きせるくわえて路傍みちばた蹲踞しゃがんでいた腰を起し、カンテラに火をつけ、集る人々の顔をずいと見廻しながら、扇子せんすをパチリパチリと音させて、二
伝通院 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
「それは無論男の方が女の方に見惚れたのさ。女が男に見惚れてしまってゝパッタリと扇子せんすを落す拍子に木の入るのは遺憾ながら芝居の舞台だけだよ」
ぐうたら道中記 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
いつぞやのように打掛うちかけこそ着ていないけれども、寝衣姿ねまきすがたのままで、手には妻紫つまむらさき扇子せんすを携えて、それで拍子を取って何か小音に口ずさんで歩いて行くと
大菩薩峠:18 安房の国の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
内新好ないしんかうが『一目ひとめ土堤づゝみ』に穿ゑぐりしつう仕込じこみおん作者さくしや様方さまがた一連いちれんを云ふなれば、其職分しよくぶんさらおもくしてたふときは扇子せんす前額ひたひきたへる幇間だいこならんや。
為文学者経 (新字旧仮名) / 内田魯庵三文字屋金平(著)
「ここもなかなか暑いね」道太は手廻りの小物のはいっているバスケットを辰之助にもってもらい、自分はかわの袋を提げて、扇子せんすを使いながら歩いていた。
挿話 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
たとえば祭礼の日にも宿老たちだけは、羽織はおりはかま扇子せんすをもってあるくが、神輿みこしかつぐ若い衆は派手な襦袢じゅばんに新しい手拭鉢巻てぬぐいはちまき、それがまった晴着であった。
木綿以前の事 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
それを但馬守たじまのかみられるのが心苦こゝろぐるしさに地方ぢかた與力よりき何某なにがしは、ねこ紙袋かんぶくろかぶせたごと後退あとずさりして、脇差わきざしの目貫めぬきのぼりうくだりう野金やきんは、扇子せんすかざしておほかくした。
死刑 (旧字旧仮名) / 上司小剣(著)
わしはその昔そなたと宗論をして、そなたを論破して、そなたの頭に扇子せんすをふるつたあの柏翁はくおうぢやよ。
ハビアン説法 (新字旧仮名) / 神西清(著)
べらべらした透綾すきやの羽織を着て、扇子せんすをぱちつかせて、お国はどちらでげす、え? 東京? そりゃうれしい、お仲間が出来て……わたしもこれで江戸えどっ子ですと云った。
坊っちゃん (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
すると吉宗、何を思ったか、いきなりおよび腰に自ら扇子せんすで御簾をはねると、ぬっと顔を突き出した。
丹下左膳:01 乾雲坤竜の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
例えばこいだとか菊水などは前者で、打出うちで木槌こづち扇子せんすの如きは後者の場合であります。煙で充分にくすぶり、これをよくきこみますから、まるで漆塗うるしぬりのように輝きます。
手仕事の日本 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
細身の繻子しゅすのズボンに真紅まっかな靴下、固い立襟に水兵服、喉まで締め上げた万国博覧会時代の両前の上着。そうかと思うと、何を考えたか扇子せんすなんてのを持ったのもいる。
其の浪人が私の父を殺害せつがいいたしたに相違ないという事は、世間の人も申せば、私も左様に存じます、其のそば扇子せんすが落ちてありました、黒骨の渋扇しぶせんへ金で山水がいて有って
菊模様皿山奇談 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
マーキュ ピーターどんや、扇子せんすつらかくさうちふのぢゃ、扇子せんすはううつくしいからなう。
扇子せんすの形をしたピストルだとかを、暗殺者はよく持っているが、そんな風なものにちがいない、そういう物品に似せるためには、どうしても弾丸の口径を細くしなければならない。
少年探偵長 (新字新仮名) / 海野十三(著)
松宇しょうう氏来りて蕪村ぶそん文台ぶんだいといふを示さる。あま橋立はしだての松にて作りけるとか。木理もくめあらく上に二見ふたみの岩と扇子せんすの中に松とを画がけり。筆法無邪気にして蕪村若き時の筆かとも思はる。
墨汁一滴 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
昔はまた役者のかんざしとか、紋印がしてある扇子せんすくしなどを身に飾って狂喜したものだ。
亡び行く江戸趣味 (新字新仮名) / 淡島寒月(著)
七ぐらいのお嬢さんと二人づれで外に乳母うばか女中がしらといったような老女が一人と若い女中が二人つき添っておりましてその三人がお遊さんのうしろから代る代る扇子せんすであおいでおりました。
蘆刈 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
背広を着て夏は扇子せんすをぱち/\させる若い店員が届けて来たりしました。
生々流転 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
遊客も芸者の顔を見れば三弦しゃみき歌を唄わせ、おしゃくには扇子せんすを取って立って舞わせる、むやみに多く歌舞かぶを提供させるのが好いと思っているような人は、まだまるで遊びを知らないのと同じく
幻談 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
かういなものゝ書たき扇子せんすかな 秋冬
古句を観る (新字新仮名) / 柴田宵曲(著)
近来なか/\面白い扇子せんす流行はやる。
福翁自伝:02 福翁自伝 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
「おお……」と乗りだして扇子せんすをつき、連名状へ眼を落した阿波守、三卿とともに息をのんで、ズーと血判をたどりながら
鳴門秘帖:01 上方の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
手にしていた扇子せんすをはたと落して、小山の動くみたいに肩ではげしく溜息をつき、シばらスい、と思わず東北なまりをまる出しにして呻き、なおもその
新釈諸国噺 (新字新仮名) / 太宰治(著)
するとうさぎなんおもつたか大急おほいそぎで、しろ山羊仔皮キツド手套てぶくろおとせば扇子せんす打捨うツちやつて、一目散もくさんやみなかみました。
愛ちやんの夢物語 (旧字旧仮名) / ルイス・キャロル(著)
扇子せんすを二本書かせたところが、酒を五合に、銭を百文、おまけに草鞋わらじ一足ねだられましたよ。早速さっそく追い出しました。
夜明け前:01 第一部上 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
と、いいかげんな節をつけて、お能がかりにうたい出すと、手をのばして般若の面を扇子せんすのように抱え込み、三番叟さんばそうを舞うような身ぶりで舞いはじめました。
大菩薩峠:28 Oceanの巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
いうもおそし、一同はわれ遅れじと梯子段をけ下りて店先まで走り出ると、差翳さしかざ半開はんびらきの扇子せんすに夕日をよけつつしずかに船宿の店障子へと歩み寄る一人のさむらい
散柳窓夕栄 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
すると小田さんはにっこり笑って、テーブルのわきの椅子に腰をおろし、扇子せんすを開いて、あおぎながら
自殺か他殺か (新字新仮名) / 小酒井不木(著)
掃部頭十日の朝になると役人名簿を取り寄せて、眼をつぶって扇子せんすか何かでぐるぐるぐるとんとでたらめに名を突いて、夕方その者を呼び出させたということだから。
つづれ烏羽玉 (新字新仮名) / 林不忘(著)
自分が書画会をする時には自筆の扇子せんすを持って叩頭おじぎに来たと、馬琴の義理知らずと罵っている。
八犬伝談余 (新字新仮名) / 内田魯庵(著)
すると姉達はこの縮緬ちりめんの模様のある着物の上にはかま穿いた男のあといて、田之助たのすけとか訥升とっしょうとかいう贔屓ひいきの役者の部屋へ行って、扇子せんすなどをいて貰って帰ってくる。
硝子戸の中 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
と、こう、意味いみありげにいって、おしょうさんは、扇子せんすでふところへかぜれていました。
子供は悲しみを知らず (新字新仮名) / 小川未明(著)
私たちはここでまた余るほどの買物が出来た。はぎ編籠あみかご銅羅どら、甕、壺、徳利とっくり、紙、銀細工、竹細工、扇子せんす団扇うちわくしなど。実に旅に出てから市日を追うこと九日間に十二回。
全羅紀行 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
だなをおとした喜多八きたはちといふではひだすと、「あのかた、ね、友禪いうぜんのふろ敷包しきづつみを。……かうやつて、すこなゝめにうつむき加減かげんに、」とおなじ容子ようすで、ひぢへ扇子せんすの、扇子せんすはなしに
木菟俗見 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
ことに目にたつのは正月の十五日前で、これを子どもが持つと、ちょうど神主かんぬしさんのしゃく扇子せんすと同じく、彼らの言葉と行ないに或る威力がある、というふう昔者むかしものは今も感じている。
こども風土記 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
と言って扇子せんすをパチ/\させているところは、新太郎君の贔屓目ひいきめかも知れないが、こわいガヷナーさんとも見えなかった。母親が気を利かしたのか、手土産はチョコレートだった。
脱線息子 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
一寸ちょっと一目見ただけでも、あの浪人者なんぞは、お前さんの、扇子せんすがちょいと動きゃあ、咽喉笛のどぶえに穴をあけて、引っくり返るのは、わかっていたが、人気渡世が、初の江戸下りに、血を流すのも
雪之丞変化 (新字新仮名) / 三上於菟吉(著)
声自慢のとびが山車に引きそい、顔のうえに扇子せんすをかざして木遣節きやりぶし