彼女かのじょ)” の例文
その彼女かのじょは、いろいろのひとに、T町ティーまちにあるM病院エムびょういんはなしをして、はたして、それはほんとうのことかと、たしかめようとしました。
世の中のこと (新字新仮名) / 小川未明(著)
それがひとうように規則的きそくてきあふれてようとは、しんじられもしなかった。ゆえもない不安ふあんはまだつづいていて、えず彼女かのじょおびやかした。
伸び支度 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
ツルは女だからさすがに花をうまくあしらい美しいパノラマをつくる、また彼女かのじょはそれをつくり私たちにみせるのがすきだった。
花をうめる (新字新仮名) / 新美南吉(著)
当時は婦人の身長が一体に低かったようであるが彼女かのじょも身のたけが五尺にたず顔や手足の道具が非常に小作りで繊細せんさいを極めていたという。
春琴抄 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
ある日、わたしが彼女かのじょの部屋へ入って行くと、彼女は籐椅子とういすにかけて、頭をぎゅっと、テーブルのとがったふちしつけていた。
はつ恋 (新字新仮名) / イワン・ツルゲーネフ(著)
右のこわきに、咲耶子さくやこのからだを引っかかえていた。不意ふいに、当身あてみをうけたのであろう、彼女かのじょは力のない四をグッタリとのばしていた。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
最初さいしょ彼女かのじょおこった現象げんしょうしゅとして霊視れいしで、それはほとんど申分もうしぶんなきまでに的確てきかく明瞭めいりょう、よく顕幽けんゆう突破とっぱし、また遠近えんきん突破とっぱしました。
しかし、彼女かのじょのものの考え方には、どことなく面白おもしろいところがあったので、うちなかのつまらない仕事しごともそのために活気かっきづき、うるおいがしょうじた。
母の話 (新字新仮名) / アナトール・フランス(著)
余が口笛くちぶえいたら、彼女かのじょはふっと見上げたが、やがて尾をれて、小さな足跡あしあとを深く雪に残しつゝ、裏の方へ往って了うた。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
こういう職務に立つときの彼女かのじょの姿態に針一きの間違いもなく手間の極致をつくしてり出した象牙ぞうげ細工のような非人情的な完成が見られた。
渾沌未分 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
彼女かのじょのとうに死んでいる友人と話し合ってでもいると言ったような、空虚うつろまなざしがまざまざと蘇ってくる……と思うと
美しい村 (新字新仮名) / 堀辰雄(著)
合宿前の日当りの芝生しばふに、みんなは、円く坐って、黒井さんが読みあげる、封筒ふうとう宛名あてなに「ホラ、彼女かのじょからだ」とか一々、騒ぎたてていました。
オリンポスの果実 (新字新仮名) / 田中英光(著)
乳母のおはまには、郷里では久しく文通をおこたっていたが、いざ上京というときになって、ふと彼女かのじょのことを思いおこし、みょうに感傷的な気分になった。
次郎物語:05 第五部 (新字新仮名) / 下村湖人(著)
彼女かのじょ田舎いなかの程度の低い学校を出たばかりで、充分の高等教育を受けなかったので、常に自分の無学を悲しみ、良人に対して満足な奉仕ほうしができないことをなげびた。
これは風というよりもむしろ彼女かのじょの性質であった。自分はそれでも兄が先刻さっきの会談のあと、よくこれほどに昂奮こうふんした神経を治められたものだと思ってひそかに感心した。
行人 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
それだからとって、ぼく彼女かのじょをこましゃくれた女だとは思いたくなかった。
魚の序文 (新字新仮名) / 林芙美子(著)
しかし、彼女かのじょは兄をやさしく愛していたし、兄も口には出さないが彼女を大切たいせつにしていた。彼等は二人ふたりきりでほかに身寄みよりものもなかった。二人ふたりとも生活のためにひどく苦労くろうして、やつれはてていた。
ジャン・クリストフ (新字新仮名) / ロマン・ロラン(著)
彼女かのじょは、かぜかれながらっていましたが、やがて、自分じぶんもまたすなうえへすわったのです。そして、やはりうみほうていました。
北の少女 (新字新仮名) / 小川未明(著)
しかし、袖子そでこはまだようや高等小学こうとうしょうがくの一学年がくねんわるかわらないぐらいの年頃としごろであった。彼女かのじょとてもなにかなしにはいられなかった。
伸び支度 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
ジナイーダが、わたしたちの一座を、新しい気分のものに切りえたのだ。わたしは小姓こしょうの役目がら、彼女かのじょのそばに席をめた。
はつ恋 (新字新仮名) / イワン・ツルゲーネフ(著)
夜はめっしておく習慣しゅうかん城塞じょうさいは、まッくらで、隠森いんしんとして、ただひとりさけびまわる彼女かのじょの声が木魂こだまするばかりだった。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「いつかの画家さんよ……また、お会いしたわ」——彼女かのじょにそう注意をされるまでは、私はその男が、このごろ何の理由もなく私を苦しめ出している
美しい村 (新字新仮名) / 堀辰雄(著)
その後、しばらくしてから、「坂本さん、ボオトの写真、うち、しいわ」と女学生服をきた彼女かのじょから、兄貴にでもねだるようにして、せがまれました。
オリンポスの果実 (新字新仮名) / 田中英光(著)
正直者しょうじきもの香織かおりは、なみだながらに、臨終りんじゅうさいして、自分じぶん心懸こころがけわるかったことをさんざんびるのでした。しばらくして彼女かのじょ言葉ことばをつづけました。——
しかし彼女かのじょはそれまで私が心の中で育てていたツルとはたいそうちがっていて、普通ふつうのおろかな虚栄心きょえいしんの強い女であることがわかり、ひどい幻滅げんめつを味わったのは
花をうめる (新字新仮名) / 新美南吉(著)
それがまだ道江にはわかっていないとしても、いつかは彼女かのじょの耳にもはいるだろう。その時の道江の顔を想像しただけでも、身がちぢむような気がするのだった。
次郎物語:05 第五部 (新字新仮名) / 下村湖人(著)
「ええ」と云って彼女かのじょかさを手に持ったまま、うしろを向いて自分の後足あとあしを顧みた。自分は赤い靴を砂の中にうずめながら、今日の使命をどこでどう果したものだろうと考えた。
行人 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
真佐子は漂渺ひょうびょうとした、それが彼女かのじょの最も真面目まじめなときの表情でもある顔付をして復一を見た。
金魚撩乱 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
想像力そうぞうりょくがない」と彼女かのじょがいったのは、それは想像力そうぞうりょくといえば、小説しょうせつを作るというようなことだけをいうものとおもっていたからで、そのじつ、母は自分じぶんではらずにいるのだけれど
母の話 (新字新仮名) / アナトール・フランス(著)
彼女かのじょは、このおろかなむこが、たとえ自分じぶんしたい、あいしてくれましたにかかわらず、どうしても自分じぶんあいすることができなかったのです。
海ぼたる (新字新仮名) / 小川未明(著)
おとこおんな相違そういが、いまあきらかに袖子そでこえてきた。さものんきそうなにいさんたちとちがって、彼女かのじょ自分じぶんまもらねばならなかった。
伸び支度 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
初めのうちは私は、ジナイーダの名前をさえ口にする勇気が出なかったが、やがて我慢がまんがならなくなって、しきりに彼女かのじょのことをめちぎりだした。
はつ恋 (新字新仮名) / イワン・ツルゲーネフ(著)
甲府こうふ代官だいかん大久保石見守おおくぼいわみのかみが、手をまわしてれておいた裏切うらぎり者はすべてで十二人、彼女かのじょの走りだすさき、さけるさきに、やりを取って立ちふさがる。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
面白おもしろいのは、Tじょちちが、海軍将校かいぐんしょうこうであっために、はしなくも彼女かのじょ出生地しゅっしょうちがその守護霊しゅごれい関係かんけいふか三浦半島みうらはんとうの一かく横須賀よこすかであったことであります。
M氏は、それを誰か女の選手に、彼女かのじょの持物として、預かってもらえと言います。浅ましい話ですが、ぼくはそれをきくと、眼の色が変るほど、興奮しました。
オリンポスの果実 (新字新仮名) / 田中英光(著)
最初に私が彼女かのじょに会った当時の彼女のういういしい面影おもかげと、数カ月前、最後に会った時の、そしてその時から今だに私の眼先にちらついてならない彼女の冷やかな面影と
美しい村 (新字新仮名) / 堀辰雄(著)
それには、かれが上京以来三年以上もの間、一度も彼女かのじょに手紙を出さなかったことに対して、冗談じょうだんまじりに軽い不平がのべてあり、そのあとに、つぎのような文句が書いてあった。
次郎物語:05 第五部 (新字新仮名) / 下村湖人(著)
お蘭は、世の中の雑音には極めておびやすただ一人、自分だけ静な安らかなひとみを見せる野禽のどりのような四郎をいじらしく思った。彼女かのじょはこの人並でないものに何かといたわりの心を配ってやった。
みちのく (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
三沢もまた、あの美しい看護婦をどうする了簡りょうけんもない癖に、自分だけがだんだん彼女かのじょに近づいて行くのを見て、平気でいる訳には行かなかった。そこに自分達の心づかない暗闘があった。
行人 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
「あの若者がとびこんだところから、あなたもとびこみなさい。」むすめ躊躇ちゅうちょしなかった。彼女かのじょは小さな心臓しんぞうを、両掌りょうてににぎられた小鳥のように、ときめかせながら岩のところに下りていった。
おしどり (新字新仮名) / 新美南吉(著)
彼女かのじょには、どうしても、このとき、んでしまったということが、あまりに、子供こどもたいして、いじらしくていえなかったのでした。
遠方の母 (新字新仮名) / 小川未明(著)
彼女かのじょを救う一番いい方法は、寺へたのんでしばらく国元の様子の判るまで置いてもらうことだと思いましたが、乱世のならわし、同じような悲運な事情で寺へ泣付いて来る者がたくさんあって
鯉魚 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
彼女かのじょらの
牢獄の花嫁 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
あわれな母親ははおやは、二人ふたり子供こどもまわしていいました。そこで母親ははおやなかにして、あにひだりに、おとうと彼女かのじょみぎこしをかけたのであります。
石段に鉄管 (新字新仮名) / 小川未明(著)
いよいよ彼女かのじょは現実を遊離する徴候ちょうこうを歴然と示して来た。
金魚撩乱 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
彼女かのじょは、小指こゆびりました。そして、あかを、サフランしゅのびんのなからしました。ちょうど、まどそとは、いい月夜つきよでありました。
砂漠の町とサフラン酒 (新字新仮名) / 小川未明(著)
しかし、彼女かのじょはどうしてもうみほおずきをからわすれることができませんでした。うちかえってもそのことばかりおもしていました。
海ほおずき (新字新仮名) / 小川未明(著)
めにいったのは、鳥屋とりやでありました。そこへいっても、彼女かのじょはよくはたらきました。とりをやったり、いろいろとり世話せわをしました。
ちょうと三つの石 (新字新仮名) / 小川未明(著)
あるのこと、彼女かのじょは、いつかあかかみいしつつんでげたいわうえにきて、うみのぞみながら、かみさまにわせて、しずかにいのりました。
夕焼け物語 (新字新仮名) / 小川未明(著)
「おお、いいおつきさまだこと。ぼっちゃんのおかあさんは、あのなかに、おいでなさるのですよ。」と、彼女かのじょつきゆびさしながらいいました。
遠方の母 (新字新仮名) / 小川未明(著)