いつも)” の例文
成るべくは親元身請にいたし、幾分でもそこのところを安くと考えていらっしゃるんですから、中々お酒もいつものように召あがらない。
三四郎はこれで云へる丈の事をことごとく云つた積りである。すると、女はすこしも刺激に感じない、しかも、いつもの如く男を酔はせる調子で
三四郎 (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
確かに兄は起きてゐたのにといぶかりながら、勝代は手索てさぐりでマツチを搜して、ランプを點けて見ると、兄はいつもの所に寢てゐなかつた。
入江のほとり (旧字旧仮名) / 正宗白鳥(著)
其時も叔父は、私におあしを呉れる事を忘れなかつた。母はいつもの如く不興な顔をして叔父を見てゐたが、四周あたりに人の居なくなつた時
刑余の叔父 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
平次の態度にはいつもに似気なく真剣なところがあるので、無駄の多いガラッ八も、さすがに口をつぐんで、親分の顔を見上げました。
医者は友達の顔を見ると、いつものやうに新聞売子がうるさくて、しみ/″\エマアソンが読めないのが何よりも残念だと話をした。
いつもごとく台処から炭を持出もちいだして、お前は喰ひなさらないかと聞けば、いいゑ、とお京のつむりをふるに、では己ればかり御馳走ごちそうさまに成らうかな
わかれ道 (新字旧仮名) / 樋口一葉(著)
復たいつもの癖が初まったナと思いつつも、二葉亭の権威を傷つけないように婉曲えんきょくに言い廻し、僕の推察は誤解であるとしても
二葉亭余談 (新字新仮名) / 内田魯庵(著)
もう暗い冬の日光ひかげの照りやんだ暮れ方だからまだしもだとはいいながら今さらにお宮の姿が見る影もなくって、いつものお召の羽織はまあいいとして
うつり香 (新字新仮名) / 近松秋江(著)
わたくし夕食後ゆふしよくごいつものやうに食堂しよくだう上部じやうぶ美麗びれいなる談話室だんわしつでゝ、春枝夫人はるえふじん面會めんくわいし、日出雄少年ひでをせうねんには甲比丹カピテンクツクの冐瞼旅行譚ぼうけんりよかうだんや、加藤清正かとうきよまさ武勇傳ぶゆうでん
それからは茅萱ちがやの音にも、うおかえりかと、待てど暮らせど、大方いつものにへにならつしやつたのでござらうわいなう。
二世の契 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
いつものやう縁に立つて、狭い庭、垣の外の空地、崖で境してゐる前の家、後の家と、見るともなく眼を漂はした。
秋の第一日 (新字旧仮名) / 窪田空穂(著)
中央ちうあうおほきなからつゞ淺瀬あさせさゝへられてふねいつもところへはけられなくつてる。たゞ一人ひとり乘客じようかくである勘次かんじ船頭せんどう勝手かつてところへおろされたやうにおもつた。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
僕は土蔵くらの石段に腰かけていつもごと茫然ぼんやりと庭のおもてながめて居ますと、夕日が斜に庭のこんで、さなきだに静かな庭が、一増ひとしお粛然ひっそりして、凝然じっとして
運命論者 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
左様さうか、まだ働いてるか。それからの……何か……母さんはまたいつものやうに怒つてやしなかつたか。』
破戒 (新字旧仮名) / 島崎藤村(著)
すると、やが慄然ぞっとしてねむたいやうな氣持きもち血管中けっくわんぢゅう行渡ゆきわたり、脈搏みゃくはくいつものやうではなうて、まったみ、きてをるとはおもはれぬほど呼吸こきふとまり、體温ぬくみする。
お吉は夫の顔を見て、いつもの癖が出て来たかと困つた風情は仕ながらも自己おのれの胸にものつそりの憎さがあれば、幾分いくらかは清が言葉を道理もつともと聞く傾きもあるなるべし。
五重塔 (新字旧仮名) / 幸田露伴(著)
ばあや婆やといたはつて下ださる平生いつも貴嬢あなたさまの様にも無い——今日も奥様がいつもの御小言で、貴嬢の御納得なさらぬのはわたしが御側で悪智恵でも御着け申すかの御口振
火の柱 (新字旧仮名) / 木下尚江(著)
彼女は先妻の幸子が、いつもの癖で、ずかずか上り込んで来て、いつものくせで、朝、起きはぐれているところを、荒い足音で、わざと目をさまさせられたのをいきどおった。
遠藤(岩野)清子 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
牧師はやをら身を起して講壇に登つたが、いつもの黒い運動着スウェターが又眼に付く。松崎には似合つた代物だが、松崎牧師としては不似合極まると心の顏をしかめながら思つた。
半日 (旧字旧仮名) / 有島武郎(著)
ここに川縁の広い沙原——下樺しもかんばという——を見つけて、今夜の野営を張ることにした、床はつがの葉でき敷めた、屋根はいつもの油紙である、疲れた足を投げ出して、荷の整理にかかる
白峰山脈縦断記 (新字新仮名) / 小島烏水(著)
或日、私はいつもうに午食後、食堂に残って主人の相手になって無駄話に耽っていた。ふと、いなくなった「彼」の事を思い出して、主人にあのセルヴィヤ人は何うしたろうと、訊いて見た。
二人のセルヴィヤ人 (新字新仮名) / 辰野隆(著)
あるわたくし御神前ごしんぜんで、いつもとおふか精神統一せいしんとういつ状態じょうたいはいってときでございます、意外いがいにも一人ひとり小柄こがら女性じょせいがすぐまえあらわれ、いかにもさしく、わたくしてにっこりと微笑ほほえまれるのです。
シカシ人足ひとあしの留まるは衣裳附いしょうづけよりはむしろその態度で、髪もいつもの束髪ながら何とか結びとかいう手のこんだ束ね方で、大形の薔薇ばら花挿頭はなかんざしし、本化粧は自然にそむくとか云ッて薄化粧の清楚せいそな作り
浮雲 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
翌日、私は師匠の家で、いつもの通り仕事をしている。
いつもの通り、眼をつぶって神様に祈っていたのさ。」
飛騨の怪談 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
きせたる奴はお前も知ての藪醫者やぶいしや長庵坊主ばうず相違さうゐ無しうばかりではわからぬがかぞへて見れば八年あと八月廿八日に寅刻なゝつおきして三日ゆゑいつもの通り平川の天神樣てんじんさまへ參詣に出掛でかけた處か早過はやすぎ往來ゆきゝの人はなしあめしきりにつよふりこまつたなれど信心しんじん參り少しもいとはず參詣なし裏門うらもん
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
健はいつもの樣に亭乎すらりとした體を少し反身そりみに、確乎しつかりした歩調で歩いて、行き合ふ兒女こども等の會釋に微笑みながらも、始終思慮深い目附をして
足跡 (旧字旧仮名) / 石川啄木(著)
さいわいにその日は十一時頃からからりと晴れて、垣にすずめの鳴く小春日和こはるびよりになった。宗助が帰った時、御米はいつもよりえしい顔色をして
(新字新仮名) / 夏目漱石(著)
平次の態度にはいつもに似気なく真剣なところがあるので、無駄の多いガラッ八も、さすがに口をつぐんで、親分の顔を見上げました。
佐藤氏は面目めんもくなささうな表情をして、子供のやうな内田氏の顔を見た。内田氏は内田氏できまり悪さうにもぢ/\しながらいつも慇懃いんぎん口風くちぶりで言つた。
月「昨宵ゆうべね少し飲過ぎてお客のお帰んなすったのも知らないくらいに酔いつぶれたが、いつものきまりだから仕方がない」
業平文治漂流奇談 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
この異体同心の無二の味方を得て、主税も何となく頼母たのもしかったが、さて風はどこを吹いていたか、半月ばかりは、英吉もいつもになく顔を見せなかった。
婦系図 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
壁鼠とでもいうのか、くすんだ地に薄く茶糸ちゃで七宝繋ぎを織り出したいつものお召の羽織に矢張り之れもお召の沈んだ小豆色あずきいろの派手な矢絣の薄綿を着ていた。
別れたる妻に送る手紙 (新字新仮名) / 近松秋江(著)
お吉は夫の顔を見て、いつもの癖が出て来たかと困った風情はしながらも自己の胸にものっそりの憎さがあれば、幾らかは清が言葉を道理もっともと聞く傾きもあるなるべし。
五重塔 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
おどろいてかへるにあばもの長吉ちようきち、いま廓内なかよりのかへりとおぼしく、浴衣ゆかたかさねし唐棧とうざん着物きもの柿色かきいろの三じやくいつもとほこしさきにして、くろ八のゑりのかゝつたあたらしい半天はんてん
たけくらべ (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
サ、サ、それよりは稻妻いなづまかへつてたから、いつもやう海濱うみべへでもつて、面白おもしろあそんでおで。
で、いつもの調子で現今政海の模様を滔々と説いて今にも内閣が代れば自分達が大臣になるやうな洞喝ほらを盛んに吹立てた。なにしろ大洞福弥の洞喝と来たら名代のものだから子。
犬物語 (新字旧仮名) / 内田魯庵(著)
なんだんべ」勘次かんじはふつとかれ平生へいぜいかへらうとしていつも不安ふあんらしいみはつておつたをた。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
自分が眠っている間に出かけられては残念な気がしたので、いつもよりも早目に炬燵を出た。
入江のほとり (新字新仮名) / 正宗白鳥(著)
その日は岸本もいつもより早く二階を仕舞って家の方へ帰って行った。丁度家の格子戸こうしどの前で、古い池の方から長い黐竿をげて戻って来る二人の子供と一緒に成った。一郎と繁だ。
新生 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
伯母は怪訝けげんな目して良久しばし篠田を見つめしが「——又た明日ゆつくり話しませう、疲れたらうに早くおやすみ、いつもの所にお前の床がある、——気候が寒いで、風邪かぜでも引かれると大変だ」
火の柱 (新字旧仮名) / 木下尚江(著)
乘りあひの者は一時に笑つた、いつもの通り船頭が口をだした。
佃のわたし (旧字旧仮名) / 長谷川時雨(著)
智恵子は考へ深い眼を足の爪先に落して、帰路かへりぢを急いだが、其心にあるのは、いつもの様に、今日一日をむだに過したといふ悔ではない。
鳥影 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
さいはひそのは十一時頃じごろからからりとれて、かきすゞめ小春日和こはるびよりになつた。宗助そうすけかへつたとき御米およねいつもよりえ/″\しい顏色かほいろをして
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
その子供が先日こなひだ学校で貰つた賞品を抱へて、いつものやうに大学の構内を通りかゝつた。すると、擦違すれちがつた大学生の一人が
あいにくいつものように話しもしないで、ずかずか酒井が歩行あるいたので、とこう云うひまもなかった、早や我家の路地が。
婦系図 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
大「いや/\御殿ではかえって話が出来ん、其の方いつもの係り役人にっても、必らず当家へ来たことを云わんように」
菊模様皿山奇談 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
と、長田のいつもの乱筆で、汚い新聞社の原稿紙に、いかにも素気そっけなく書いてある。私は、それを見ると、銭の入っていない失望と同時に「はっ」と胸を打たれた。
別れたる妻に送る手紙 (新字新仮名) / 近松秋江(著)
毎日毎日通学するのだがネ。ここある朝偶然大真理を発見する種になる事に出逢ッたのサ。ちょうど或朝少し後れて家を出たが、時間がいつもより後れたから駈出したのサ。
ねじくり博士 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)