黒布くろぬの)” の例文
その黒布くろぬのを剥ぎかけましたが途端に、眼でも射られたように、アッと——頭巾の布をつかんだまま身をはじかせたかと思いますと
江戸三国志 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
だん伸の三きやくの上にてゝ黒布くろぬのをかぶりながら焦點せうてんあはせる時のわたし滿まん足とうれしさ、とまたほこらしさとはいひやうもなかつた。
一杯いっぱい雛壇ひなだんのやうな台を置いて、いとど薄暗いのに、三方さんぽう黒布くろぬの張廻はりまわした、壇の附元つけもとに、流星ながれぼし髑髏しゃれこうべひからびたひとりむしに似たものを、点々並べたのはまとである。
伯爵の釵 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
そうしてまたもやお島の全身が、黒布くろぬのによっておおわれた。しかしその布が取り去られた時、お島の体には異変はなかったが、鏡中の人々には異変があった。
十二神貝十郎手柄話 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
へやの中は夕暮よりもなお暗い光で照らされていた。天井から下がっている電気灯のたま黒布くろぬの隙間すきまなくおいがしてあった。弱い光りはこの黒布の目をれて、かすかに八畳の室を射た。
思い出す事など (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
黒布くろぬので蔽われたシーザーの棺桶は、講堂の入口から、壇の下まで搬ばれる、そこにはアントニオ役の前田マサ子が立っていて、そこで棺の蔽布おおいが除かれ、中からシーザーの死骸があらわれる
棺桶の花嫁 (新字新仮名) / 海野十三(著)
ふところから、黒布くろぬのを出し、市十郎にも渡して、強盗被りに顔をつつんだ。そしてそこの塀をおどり越えた——と思うと、内から、潜り戸を開けて、また顔を出した。
大岡越前 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
甲必丹キャピタンカランスが背後から、手に持っていた黒布くろぬのを、その瞬間に冠せたのであった。
十二神貝十郎手柄話 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
と云うところから仕方がない、呉服屋へ行って黒布くろぬのを三十五反八分七はちぶんのしち買って来て例の獣類の人間にことごとく着物をきせた。失礼があってはならんと念に念を入れて顔まで着物をきせた。
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
「だまれ、おのれこそ怪しいやつ、その黒布くろぬのをひん剥いてやるから覚悟しろ」
江戸三国志 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
とお島は意外だったので、黒布くろぬのの中で声を上げた。しかしその次の瞬間には、黒布くろぬのは既に取り去られていた。お島は鏡中の世界を見た。三人の男女がいぶかしそうに、人形を取り上げて調べている。
十二神貝十郎手柄話 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)