麦湯むぎゆ)” の例文
もし旦那さん誠にねえお待遠まちどおだろうが、少しねえ荷イおろしてかなければなんねえ、貴方あんたおりて下さい、おりて何もねえが麦湯むぎゆがあるからゆっくりと休んで
霧陰伊香保湯煙 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
登はわざと女を見ないように茶碗をって、麦湯むぎゆのような微濁うすにごりのした冷たい物を口にした。
雑木林の中 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
『そこじゃあ暑うござんす。こっちへおへえいんなすって、麦湯むぎゆでも召上っておくんなさい』
新編忠臣蔵 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
お絹は列び茶屋の不二屋ふじやを目指しているらしく、軒提灯の涼しい灯のあいだを横切って通った。まだ宵ながらそこらには男や女の笑い声がきこえて、麦湯むぎゆの匂いが香ばしかった。
両国の秋 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
お婆様はようやくのことでその人のすまっている所だけを聞き出すことが出来ました。若者は麦湯むぎゆを飲みながら、妹の方を心配そうに見てお辞儀を二、三度して帰って行ってしまいました。
溺れかけた兄妹 (新字新仮名) / 有島武郎(著)
昨日のあがだかでは千五百円の大損、それに引きかえて、同所の、火除ひよけ地へ、毎夜出る麦湯むぎゆの店は百五十軒に過ぎ、氷水売は七十軒、その他の水菓子、甘酒、諸商人の出ること、晴夜せいやには
朱絃舎浜子 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
しかし種彦は今更いまさらにどうとも仕様のないこの煩悶はんもんをばいても狂歌や川柳せんりゅうのように茶化してしまおうと思いながら、歩いて行く町のところどころに床几しょうぎを出した麦湯むぎゆねえさんたちのいやらしい風俗。
散柳窓夕栄 (新字新仮名) / 永井荷風(著)