鬼灯ほおずき)” の例文
旧字:鬼燈
庭の手入も、年とともに等閑になったが、鬼灯ほおずきばかりは最後の年までよく出来た。私はその青い実の一輪を妻の病床に飾ったのだった。
吾亦紅 (新字新仮名) / 原民喜(著)
歪形いびつのペシャンコの亜鉛トタンの洗面器が一つ放ったらかしで、豆電灯まめでんき半熟はんうれの鬼灯ほおずきそのまま、それも黄色い線だけがWに明ってるだけだから驚いた。
フレップ・トリップ (新字新仮名) / 北原白秋(著)
「なあに母ちゃん」と私が答えると母は力のない声で、そこいらに鬼灯ほおずきの木がないかと訊いた。子供は親切である。みんなしてそこいらを探してくれた。
朽木くちきのような細い体は、とたんに、黒髪を重そうにして、仰向けに、倒れた。——ろうより白い死の顔は——その唇は、鬼灯ほおずきをつぶしたような血のかたまりを含んでいた。
雲霧閻魔帳 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
今宵こよいは地球と箒星とが衝突すると前からいうて居たその夜であったから箒星とも見えたのであろうが、善く見れば鬼灯ほおずき提灯がおびただしくかたまって高くさしあげられて居るのだ。
熊手と提灯 (新字新仮名) / 正岡子規(著)
私が見ていたあたりへも、一村雨むらさめさっとかかったから、歌も読まずに蓑をかりて、案山子の笠をさして来ました。ああ、そこの蜻蛉とんぼ鬼灯ほおずきたち、小児こどもに持たして後ほどに返しましょう。
天守物語 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「こんど又できるんだ。こまった。鬼灯ほおずきの根でも飲まそうかと思うんだ。」
童子 (新字新仮名) / 室生犀星(著)
御駕籠脇は黒蝋くろろうの大小さした揃いの侍が高端折たかはしおり福草履ふくぞうりと、九尺おきにげたお小人こびとの箱提灯が両側五六十、鬼灯ほおずきを棒へさしたように、一寸一分のあがさがりもなく、粛々として練って来ました。
大菩薩峠:17 黒業白業の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
番「えゝ鬼灯ほおずきなどは植えんように致してございます」
菊模様皿山奇談 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
鬼灯ほおずきくさの間にふと赤し 非群
古句を観る (新字新仮名) / 柴田宵曲(著)
鬼灯ほおずきの赤らみもしてあるじぶり
六百五十句 (新字新仮名) / 高浜虚子(著)
それでまだ物足らぬと見えて屋根の上から三橋の欄干らんかんへ綱を引いてそれに鬼灯ほおずき提灯を掛けて居るのもある。どうも奇麗だ。何だか愉快でたまらん。車は「揚出し」の前を過ぎて進んで往た。
熊手と提灯 (新字新仮名) / 正岡子規(著)
鬼灯ほおずきを咲かせたような御用提灯ごようぢょうちんの鈴なりです。
江戸三国志 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
薄 鬼灯ほおずきさん、蜻蛉とんぼさん。
天守物語 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
鬼灯ほおずきを舌に浮かせてさえずりました。
江戸三国志 (新字新仮名) / 吉川英治(著)