馬蹄ひづめ)” の例文
そのうちに、飾磨しかま道の並木のうえに、ぼっと火光がして来た。点々と、松明たいまつが近づいてくる。てた大地を戛々かつかつ馬蹄ひづめの音も聞えてくる。
新書太閤記:09 第九分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
指環ゆびわの輝くやさしい白い手の隣りには馬蹄ひづめのように厚い母指おやゆびの爪がそびえている。あかだらけの綿めんネルシャツの袖口そでぐちは金ボタンのカフスとあい接した。乗換切符の要求、田舎ものの狼狽ろうばい
深川の唄 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
二騎、町木戸から、ほこりを立てて、城門の方へ駈け去った馬蹄ひづめの音にも、さして事々しく、天下の急変の前駆ぜんくとは、耳そばだてる者もなかった。
新書太閤記:07 第七分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
表のほうに馬のいななきが聞えだした。次第にそれは、人声や馬蹄ひづめの音も加えてくる。泉殿の門前から広前へかけて、人の寄って来る気はいであった。
源頼朝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
とたんに馬蹄ひづめの音は、戞々かつかつとそろい出した。自分の駒も出ているのである。彼は、幾度も振向いた。黒々と、一群の人影は、いつまでも泉殿の前に見えた。
源頼朝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
大声一呼、馬蹄ひづめに土を蹴るやいなや、うしろの猛将たちと共に、彼も斧をふるって、関羽へ撃ってかかった。
三国志:10 出師の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
馬蹄ひづめや、具足をつけた草鞋わらじが、ぱくぱくと埃を持ち上げる。真っ黄いろに空は汚れて、太陽が黒く見える。
篝火の女 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
二人は、六尺棒を持ち直し、棒のように、きっとなった。そして、馬蹄ひづめの音を交じえた跫音が深夜の大地を打って近づいて来ると、木戸の大門を左右から開いた。
大岡越前 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
堀内伝右衛門は、町住居まちずまいだった。いつも馬で、若党に仲間ちゅうげんをつれ、高輪たかなわから細川家の上屋敷に近い町まで、わが家の寝床を思いながら、緩慢な馬蹄ひづめの音を楽しんで戻るのだった。
べんがら炬燵 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
それに道とても、一足おくれれば、西したか、東したか、馬蹄ひづめ痕形あとかたもないのである。
源頼朝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
笑い興じていると、すぐ下の河原のふちで、馬蹄ひづめの音が、かつっ——と石に響いた。
篝火の女 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
と元気よく駈けてゆく馬蹄ひづめの音に、武蔵が森から出て、まばゆい草の海を見送っていると、伊織の影は、一羽のからすが、太陽の火焔の真っただ中へけ入って行くように、またたく間に、小さくなり
宮本武蔵:07 二天の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
馬蹄ひづめの音や、草摺くさずりの音が、にわかに、仮借かしゃくない厳しさをそこにみなぎらせ
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
町中に馬蹄ひづめの音もゆるく大股に運ばれていた。
新書太閤記:09 第九分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)