せん)” の例文
例の盧生ろせい邯鄲かんたんの夢——黄梁こうりょうせんの出来る間に五十年の栄華を夢みたという話なども、決して単なる偶話ではなく、私の所謂いわゆる第四次元の世界を覗き
一本のくぎから大事件が生ずるように、青魚さばの煮肴が上条の夕食のせんのぼったために、岡田とお玉とは永遠に相見ることを得ずにしまった。そればかりでは無い。
(新字新仮名) / 森鴎外(著)
ほのかに聞くにつけても、それらの面々の面目に係ると悪い。むかし、八里半、僭称せんしょうして十三里、一名、書生の羊羹、ともいった、ポテト……どうも脇息向のせんでない。
薄紅梅 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
鼠に食を奪わるるも怒らずに譲り与うるは義なり。客至ってせんを設くればすなわち出で来るは礼なり。物を蔵するに密なれども能く盗むは智なり。冬月つねかまどに入るは信なりと。
汝が如き詩人ならましかば、そを樂みて聞きもせん。我は恰も消化し難きせんに向へる心地して、はらのうちには彼女子今か出づるとのみおもひ居たり。此時翁は感ずべき好き智慧を出しぬ。
手がつけられぬ珍せんとなつて、味聖に幻滅を感ぜしめるのではあるまいか。
たぬき汁 (新字旧仮名) / 佐藤垢石(著)
これで思起おもひおこすのは、陰暦の二月すゑには、既に韮がえ、木の新芽がせんに供し得る程になつてゐるといふことである。それから、『わらび漬』などとあるのも少年の頃をしのばしめるのであつた。
念珠集 (新字旧仮名) / 斎藤茂吉(著)
荷口村の養鱒場で、美味口に奢る虹鱒にじますせんも嗜んだ。
水の遍路 (新字新仮名) / 佐藤垢石(著)