飽々あきあき)” の例文
「誰が、ベソなんか掻くもんかい。——おらはもう、茶わん屋奉公など飽々あきあきだ。こんどは侍屋敷へ行って、侍奉公をするんだよだ!」
新書太閤記:01 第一分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
いま、あなたと對ひ合つてゐると夫とは飽々あきあきしてゐたことが、あたらしく體内をべつの作用を起してくるのを覺えるんです。
はるあはれ (旧字旧仮名) / 室生犀星(著)
「全く御気の毒のかぎりと云ひたいところだ。此の頃はおふくろも、弟も、僕には飽々あきあきしてる模様ですよ」
浮雲 (新字旧仮名) / 林芙美子(著)
金毛九尾の狐でもい、くずの葉さらに結構、にもかくにも、この女性に飽々あきあきした心をたぎり返らせて、命までもと打込うちこませる魅力を発散する女は無いものであろうか。
猟色の果 (新字新仮名) / 野村胡堂(著)
同時に私はもう親の慈愛には飽々あきあきしたような心持もしました。親は何故なぜ不孝なそのを打捨ててしまわないのでしょう。児は何故なにゆえに親に対する感謝の念にめられるのでしょう。
監獄署の裏 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
余も三十年の間それを仕通しとおして、飽々あきあきした。き飽きした上に芝居や小説で同じ刺激を繰り返しては大変だ。余が欲する詩はそんな世間的の人情を鼓舞こぶするようなものではない。
草枕 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
夜来、飽々あきあきするほど山道を歩いて来て——いや牛の歩みにまかせて来て、黎明れいめいと共に、人間のいる里に接した武蔵は、牛の背から思わず
宮本武蔵:05 風の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「心配するなよ。金は小判というものをフンダンに持っているんだ。なア八、俺もこの稼業には飽々あきあきしてしまったから、今年は一つ商売替をしようと思うがどうだ」
「二年ばかり。ねえ、私、東京へ行きたいのですけど、もう、こんな淋しい処は飽々あきあきしちやつた……。第一、景気もよくないし、寒いとお客もないですからね……」
浮雲 (新字旧仮名) / 林芙美子(著)
とは、この長雨とかび飽々あきあきした一般のかこごとであったが、備中高松の一城を、長囲攻略中の羽柴軍にいわせれば
新書太閤記:07 第七分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
按摩さん、何んかお聞かせしましょうか、歌劇オペラのアリアはもう飽々あきあきしたでしょう、……そうじゃない? ……でも今日はお客様だから、客間でカルメンでもないでしょう。
焔の中に歌う (新字新仮名) / 野村胡堂(著)
「学問はちと飽々あきあきです。ほどほどにしようと思いますが、何でも、ほどよくは参らぬもので、なげうっております」
梅里先生行状記 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
お鶴、おれは思い切って山へ帰るよ、そして、お前と一緒に、呑気のんきな平和な世を送ろうじゃないか、おれはもう都会人の虚飾だらけな、ウソで固めた生活にはつくづく飽々あきあきした。
判官三郎の正体 (新字新仮名) / 野村胡堂(著)
なアみんな、俺たちも悪かったが、日がな一日、舟の中じゃ、何ぼ何でも飽々あきあきするじゃねえか。
私本太平記:01 あしかが帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
よくそんなに変なことに出っくわすんだね、俺なんか当り前のことで飽々あきあきしているよ。借りた金は返さなきゃならないし、時分どきになれば腹は減るし、遊んでばかりいると、女房は良い顔を
「おらあ、峠に飽々あきあきしちゃった。はやく江戸の賑やかな所へ出たいなあ。ねえお通さん」
宮本武蔵:05 風の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「もう宜い、君の努力主義は飽々あきあきするほど聴かされているよ」
頻りとすすめるのを、武蔵はにやにや聞いていたが、もう飽々あきあきしたというてい
宮本武蔵:03 水の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)