額越ひたいご)” の例文
「いませんか……」と眼八が、ダメを押して額越ひたいごしに相手を見つめた。ひょいと、その眼光りが変ったのを自分でも気がついて
鳴門秘帖:05 剣山の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
歯をめてのけざまに顛覆うちかえりたるが、血塗ちまぶれの額越ひたいごしに、半ば閉じたるまなこにらむがごとくえて、折もあらばむくと立たんずる勢いなり。
義血侠血 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
式なればえも隠さでいだしたるなどを、額越ひたいごしにうち見るほどに、心待こころまちせしその人は来ずして、一行はや果てなむとす。
文づかひ (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
短いはかま浅黄色あさぎいろ襦袢じゅばんえり、前髪をとった額越ひたいごしにこちらを見る少年らしい目つきの若々しさは、半蔵らにもありし日のことを思い出させずには置かなかった。
夜明け前:01 第一部上 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
保吉は匇々そうそう母のところへ彼の作品を見せに行った。何かぬいものをしていた母は老眼鏡の額越ひたいごしに挿絵の彩色へ目を移した。彼は当然母の口からめ言葉の出るのを予期していた。
少年 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
紙屑買いは手拭を畳んでかぶった額越ひたいごしに七兵衛の面を仰ぎ
大菩薩峠:02 鈴鹿山の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
友はわずかにおもてげて、額越ひたいごしに検事代理の色をうかがいぬ。渠は峻酷しゅんこくなる法官の威容をもて
義血侠血 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
藤井は額越ひたいごしに相手を見ると、にやりとった人の微笑をらした。
一夕話 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)