頸元えりもと)” の例文
此返事このへんじいて、むつとはらつた。頭巾づきんした剥出むきだして、血色けつしよく頸元えりもとかゝるとむかう後退あとすざりもしない。またいてた。
朝早く清月に行つてみのるが一人で臺詞せりふをやつてる時などに、濡れた外套を着た酒井が頸元えりもとの寒そうな風をして入つて來る事もあつた。
木乃伊の口紅 (旧字旧仮名) / 田村俊子(著)
ちらほら梅の咲きそうな裏庭へ出て、冷い頸元えりもとにそばえる軽い風に吹かれていると、お島はしきりに都の空が恋しく想出された。
あらくれ (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
女もので袖が長い——洗ったばかりだからとは言われたが、どこかヒヤヒヤと頸元えりもとから身に染む白粉おしろいの、時めくにおいで。
星女郎 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
りきと呼ばれたるは中肉の背恰好せかっこうすらりつとして洗ひ髪の大嶋田おおしまだに新わらのさわやかさ、頸元えりもとばかりの白粉もなく見ゆる天然の色白をこれみよがしにのあたりまで胸くつろげて
桑中喜語 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
彼はあやふきをすくはんとする如くひしと宮に取着きて匂滴にほひこぼるる頸元えりもとゆる涙をそそぎつつ、あしの枯葉の風にもまるるやうに身をふるはせり。宮も離れじと抱緊いだきしめて諸共もろともに顫ひつつ、貫一がひぢみて咽泣むせびなきに泣けり。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)