静御前しずかごぜん)” の例文
鎌倉へは静御前しずかごぜんが来たばかりで、判官は首になっても、腰越から中に入ることを許されなかった。そうして武蔵には兄将軍の足跡ばかり多い。
雪国の春 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
それはちょうど、狐忠信きつねたゞのぶが御殿の廊下から迫り出して静御前しずかごぜんの前にぬかずくあの千本桜せんぼんざくらの舞台の光景と、大した相違はなかったと思って差支えない。
僕は山賊のような毛脛けずね露出むきだしにした叔父と、静御前しずかごぜんかさに似た恰好かっこう麦藁帽むぎわらぼうかぶった女二人と、黒い兵児帯へこおびをこま結びにした弟を、縁の上から見下して
彼岸過迄 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
吉野あたりまで側室そばめを連れ——静御前しずかごぜんとやらを引き連れて、遊山かのようにノラリクラリと、遊ばれたと云うことじゃ! ピッピッピッ、クックック、嫉妬したのがお供の弁慶
あさひの鎧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
彼女が若し、知らずしてこの第二の品川四郎と不義を重ねているのだったら、非常な狼狽ろうばいを隠すことは出来ない筈だ。狐忠信きつねただのぶの正体を知った静御前しずかごぜんの様に、ギョッとしなければならぬ筈だ。
猟奇の果 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
静御前しずかごぜんでもあろうものなら、言われないさきに、逸早く用意の武器を持ち出して供給するのですが、お蘭さんは、まだまだ旦那を焦らし足りない、もう少し見ていて、いよいよ降参して来た時に
大菩薩峠:32 弁信の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
「熊坂」がくる、「大鋸おおのこぎり」がくる、「静御前しずかごぜん」がくる。
しかし津村の持ち出したのは、それとは別で、例の静御前しずかごぜん初音はつねつづみ、———あれを宝物として所蔵している家が、ここから先の宮滝の対岸、菜摘なつみの里にある。
吉野葛 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
これに反して馬琴ばきんのような小説は主観的分子はいくらでもありますが、この方面の融通がかないから、つまりは静御前しずかごぜんは虎のごとしなどと云う simile を使っているようなもので
創作家の態度 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)