霧雨きりさめ)” の例文
霧雨きりさめがふってきました。雨の中にすわっていると、びしょぬれになってしまいました。けれども、まもなく、強い風が吹いてきました。
今夜こんやはまた、風と霧雨きりさめをまじえた、うすら寒い、まっくらな夜です。おまけに、あたりは刻一刻こくいっこくときみわるくなってくるではありませんか。
のみならず道に敷いた石炭殻も霧雨きりさめか露かにとおっていた。僕はまだ余憤よふんを感じたまま、出来るだけ足早に歩いて行った。
死後 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
翌日の昼、霧雨きりさめの中を谷山に着いた。ごうの中は湿気に満ち、空気は濁っていた。暗号室は、壕の一番奥にあった。
桜島 (新字新仮名) / 梅崎春生(著)
目に見えないような霧雨きりさめが降っているのです。毎日々々、外出もしないで御返事をお待ちしているのに、とうとうきょうまでおたよりがございませんでした。
斜陽 (新字新仮名) / 太宰治(著)
ぼーっとけぶった霧雨きりさめのかなたさえ見とおせそうに目がはっきりして、先ほどのおっかぶさるような暗愁は、いつのまにかはかない出来心のしわざとしか考えられなかった。
或る女:1(前編) (新字新仮名) / 有島武郎(著)
今日は、霧雨きりさめにけぶつてゐるせゐか、硯のやうに、けづり立つた八重岳は見えない。ゆき子は、玄関へ出て行つた都和井の、白い足裏が気にかゝつてゐた。こゝの女達は、いつも裸足はだしである。
浮雲 (新字旧仮名) / 林芙美子(著)
かはらへついて廻したぞ」と、艫の方から声がかゝつたが、夕立のやうに、水がざわついて、小さな水球が、霧雨きりさめとなつて飛んで来たので、もう名高い天竜峡に入ツて来たと知つた、竜角峯とか
天竜川 (新字旧仮名) / 小島烏水(著)
霧雨きりさめのこまかにかかる猫柳つくづく見れば春たけにけり
雀の卵 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
ああ霧雨きりさめなかに、煙突えんとつの林……
牧羊神 (旧字旧仮名) / 上田敏(著)
霧雨きりさめ空洞ほらあなに響きなき鏡
太陽の子 (旧字旧仮名) / 福士幸次郎(著)
生憎あいにく、空は曇っている。方々の工場で鳴らす汽笛のが、鼠色ねずみいろの水蒸気をふるわせたら、それが皆霧雨きりさめになって、降って来はしないかとも思われる。その退屈な空の下で、高架こうか鉄道を汽車が通る。
(新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
鴉のこゑ遠退とほぞきゆけば雀のこゑ幽かにきたる霧雨きりさめの中
雀の卵 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
霧雨きりさめつてる
牧羊神 (旧字旧仮名) / 上田敏(著)
霧雨きりさめかかれ、あたらしく
海豹と雲 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
霧雨きりさめ朝明あさけ辛夷こぶし
海豹と雲 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)