すだ)” の例文
浪の音にはれた身も、とりに驚きて、添臥そいぶしの夢を破り、かどきあけてくまなき月に虫の音のすだくにつけ、夫恋しき夜半よわの頃、寝衣ねまきに露を置く事あり。
海異記 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
艸花くさばな立樹たちきの風にまれる音の颯々ざわざわとするにつれて、しばしは人の心も騒ぎ立つとも、須臾しゅゆにして風が吹罷ふきやめば、また四辺あたり蕭然ひっそとなって、軒の下艸したぐさすだく虫ののみ独り高く聞える。
浮雲 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
火の形に熱の意あれば水の形にも冷の意あり。されば火を見ては熱を思い、水を見ては冷を思い、梅が枝にさえずる鶯の声を聞ときは長閑のどかになり、秋の葉末にすだく虫の音を聞ときは哀を催す。
小説総論 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)