しきみ)” の例文
それに近い感情はこの頃いつも彼女が意識のしきみの下に漠然と感じつづけていたものだったが、菜穂子はあの孤独そうな明を見てから
菜穂子 (新字新仮名) / 堀辰雄(著)
さてこれにほかの凡ての願ひの集まるためには、謀りて而して許諾うけがひしきみをまもるべき力自然に汝等の中に備はる 六一—六三
神曲:02 浄火 (旧字旧仮名) / アリギエリ・ダンテ(著)
姫は、大門のしきみを越えながら、童女殿上の昔のかしこさを、追想して居たのである。長い甃道いしきみちを踏んで、中門に届く間にも、誰一人出あう者がなかった。
死者の書 (新字新仮名) / 折口信夫(著)
吹くとはなくて大気のふるうごとには忍びやかに書斎に音ずれ、薄紫の影は窓のしきみより主人が左手ゆんでに持てる「西比利亜サイベリア鉄道の現況」のページの上にちらちらおどりぬ。
小説 不如帰  (新字新仮名) / 徳冨蘆花(著)
ここを以ちて速總別の王復奏かへりごとまをさざりき。ここに天皇、ただに女鳥の王のいます所にいでまして、その殿戸のしきみの上にいましき。ここに女鳥の王はたにまして、みそ織りたまふ。
手まはりの小道具の始末をしてゐる間にも、折折弱い心が意識のしきみへあらはれて来るのであつた。それを押し殺してすず子はあくる日の朝までに、すつかり仕度をしてしまつた。
計画 (新字旧仮名) / 平出修(著)
油虫を駆除するためにその一疋を糸でくくり、家内一同だんまりで戸より引き出す内、家中の一婦髪を乱して窓に立ち、その虫がしきみ近くなった時、今夜断食の前に何をたべると問うと、一人牛肉と答え
農家みな冬のしきみを閉したり。
氷島 (旧字旧仮名) / 萩原朔太郎(著)
薔薇色の、天の御国みくにしきみから
みやしきみのかたかげに
白羊宮 (旧字旧仮名) / 薄田泣菫薄田淳介(著)
我わが第二のよはひしきみにいたりて生を變ふるにおよび、彼たゞちに我をはなれ、身を他人あだしびとにゆだねぬ 一二四—一二六
神曲:02 浄火 (旧字旧仮名) / アリギエリ・ダンテ(著)
浄域をけがした物忌みにこもっている身、と言うことを忘れさせぬものが、其でも心の隅にあったのであろう。門のしきみから、伸び上るようにして、山のの空を見入って居た。
死者の書 (新字新仮名) / 折口信夫(著)
いましがた見て来たあの暗い不思議な花のような影像イマアジュをそれらの言葉とは少しも関係がないもののように、それだけを鮮かに意識のしきみに上らせながら、診察室から帰って来た。
風立ちぬ (新字新仮名) / 堀辰雄(著)
思いつめてまどろんでいる中に、郎女の智慧が、一つのしきみを越えたのである。
死者の書 (新字新仮名) / 折口信夫(著)