鐘撞堂かねつきどう)” の例文
が、そこにも、たけの高いはげいとうが五、六本、かっと秋日にはえて、鐘撞堂かねつきどうの下に立っているばかりで、犬の子一ぴきいなかった。
久助君の話 (新字新仮名) / 新美南吉(著)
鐘撞堂かねつきどうの後に、小さい旅館が沢山並んでいる。「あんた貫一さんはないのかい?」一人てんやり歩いている私に、旅館の番頭が声をかける。
新版 放浪記 (新字新仮名) / 林芙美子(著)
さても本所の鐘撞堂かねつきどう相模屋さがみやという夜鷹宿よたかやどへ、やっと落着いた米友は、お君から何かの便りがあるかと思って、前に両国の見世物を追い出された晩
大菩薩峠:10 市中騒動の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
たしなめるようににっと歯をみせたお藤は、それでももうおもしろそうに大きくうなずいて、鐘撞堂かねつきどうからお水屋へと影づたいにいきな姿を消して行った。
丹下左膳:01 乾雲坤竜の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
けだし燕は真一文字に飛ぶ者なれば、ある時何の気もなく鐘撞堂かねつきどうの中を目がけて飛びこみたれば思はずも釣鐘に頭を打ちつけて痛き目を見つるならん。
俳諧大要 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
堺の市中は勿論、大阪、住吉、河内在等から見物人が入り込んで、いかに制しても立ち去らない。鐘撞堂かねつきどうには寺の僧侶が数人登って、この群集を見ている。
堺事件 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
そのころこの元興寺がんこうじ鐘撞堂かねつきどう毎晩まいばんおにが出て、かねつきの小僧こぞうをつかまえてべるというので、よるになると、だれもこわがってかねをつきに行くものがありません。
雷のさずけもの (新字新仮名) / 楠山正雄(著)
上野の寛永寺の鐘撞堂かねつきどうに、昔から伝わっている宮本武蔵の画というのがあるんですが。
随筆 宮本武蔵 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
このあたりで女達の客引に出る場所は、目下足場の掛っている観音堂の裏手から三社権現さんじゃごんげんの前の空地、二天門にてんもんの辺から鐘撞堂かねつきどうのある弁天山べんてんやまの下で、ここは昼間から客引に出る女がいる。
吾妻橋 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
さて今日はこれから、あの家へ遊びに行ってやろうか知ら、本所の鐘撞堂かねつきどう相模屋さがみやというんだ、よく覚えてらあ
和尚おしょうさんはたいそうよろこんで、してやりました。するとそのばん子供こどもが、一人ひとり鐘撞堂かねつきどうがってかねをつこうとしますと、どこからかおにが出てて、うしろからあたまをつかまえました。子供こども
雷のさずけもの (新字新仮名) / 楠山正雄(著)
長女 あたし、鐘撞堂かねつきどうの下んところから、帰ってきたの。
病む子の祭 (新字新仮名) / 新美南吉(著)
鐘撞堂かねつきどうの石と共に古びたり。
さあ、その行先は、よく聞いておかなかったが、なんでも本所の鐘撞堂かねつきどうとか言っていたようだ、と言いました。
「二人を、そっとここの長屋へ隠してくれた鐘撞堂かねつきどうの親方の親切のことも、お前にゃわかってるだろうな」
大菩薩峠:17 黒業白業の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
これが不思議な縁で米友は、その翌日から本所の相生町あいおいちょうの箱屋惣兵衛一家の留守番になってしまいました。それで鐘撞堂かねつきどうの相模屋から気軽くそこへ移ってしまいました。
大菩薩峠:10 市中騒動の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
まだ鐘撞堂かねつきどう新道しんみちの相模屋にいるはずだが、そうだとすれば今晩もここへかせぎに出ているかも知れない、と思って米友は、河岸の柳の蔭、夜鷹の掛小屋をいちいちのぞいて歩きました。
大菩薩峠:21 無明の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
「わたしも、本所の鐘撞堂かねつきどうまで帰るんですから、送って上げましょうか」
大菩薩峠:18 安房の国の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
「本所の鐘撞堂かねつきどうの弥勒寺長屋に、おいらと一緒に住んでいた、あの時の、あの人じゃねえのか。お前という人は、もしそうならそうだと言ってくれ——江戸の本所の鐘撞堂新道の、弥勒寺長屋に覚えはねえか、それとも、甲斐の甲府の城下の闇夜の晩……」
大菩薩峠:33 不破の関の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)