鋳型いがた)” の例文
旧字:鑄型
ウォーレス(Thorpe & Wallace)のセルロイド鋳型いがたなどが出来て、レーリーの転写は実用にはならなくなった。
レーリー卿(Lord Rayleigh) (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
からだのなかが醗酵はっこうしたようになる。どうも気味がわるい。そこで林を出て、鋳型いがた作りの職人たちが村へ帰って行く、その後ろを遠くからつける。
博物誌 (新字新仮名) / ジュール・ルナール(著)
あんたのからだには血がかよっていない、あんたは鋳型いがたから出て来たかなぶつか、さもなければ石の地蔵のような人だった、あんたにだかれて寝て子を
醜聞 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
彼が十五歳の花嫁を自分の好きな鋳型いがたに養成しようとした試みは、その頃すでに失敗に帰していたのであるから、彼の心は、再び牡鹿山の恋人の方へ
一瞬間、はかなかった恋愛の泡が消えて、エモーションの波のなかに僕は、繊細な事件のために魑魅子にあたえた心理的な新らしい恋愛の鋳型いがたを見るのであった。
しまいには、アリストテレスのヒエラルキアとして人々が信じはじめた一つの型は、後のすべての人の考えかたの鋳型いがたのような役割りをなしてきたのである。
美学入門 (新字新仮名) / 中井正一(著)
わたしは自分の気質からおして、何でもかでもそうだと貞奴をこの鋳型いがためようとするのではないが、彼女も正直な負けずぎらいであったろうと思っている。
マダム貞奴 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
なるほど、鋳型いがたというものはあるでしょう。それを取っておけば、同じような輪廓りんかくをもち、同じような色彩いろをした像を幾つとなく造ることは出来るでありましょう。
(新字新仮名) / ギ・ド・モーパッサン(著)
菊の井のお力は鋳型いがたに入つた女でござんせぬ、又なりのかはる事もありまするといふ、旦那お帰りと聞て朋輩の女、帳場の女主あるじもかけ出して唯今は有がたうと同音の御礼
にごりえ (新字旧仮名) / 樋口一葉(著)
だから情熱を軽蔑しない限り、蒐集家も一笑いつせうに付することは出来ない。しかし僕は蒐集家とは別の鋳型いがたに属してゐる。同時に又革命家や予言者とも別の鋳型に属してゐる。
続野人生計事 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
鋳型いがたの中に一定したという事はないために善いと思う事もあり悪いと思う事もあり、老成だと思う事もあり初心だと思う事もあり、しっかりとつかまえる事が出来んから
病牀苦語 (新字新仮名) / 正岡子規(著)
同じ剣工のふいごから生まれる刀にしても、その紋流もんりゅうや切れ味や鉄質までが、あながち同一でないように、鋳型いがたにハメた大名の子にも、時には、飛んでもない異端者があらわれます。
江戸三国志 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
貧乏人の一族を、時間と金をかけて、アメリカン・ライフの鋳型いがたにはめこんでやろうと決心しているので、銀盆を持ったまま、不敵な薄笑いをしながら、食堂の隅に立っている。
我が家の楽園 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
人はその金属を熔かし彼ができるかぎりの最も美しい鋳型いがたに鋳こむかもしれないが、とてもこの熔けだした土が流れて形づくるものほどにはわたしを興奮させることはできない。
電気炉の中でまっ赤にとけたアルミニウムの液を、鋳型いがたにつぎこんで、しばらくおくと、ぴかぴか銀色に光った、太い四角な棒ができる。その棒が山のようにつみあげてあるのだ。
智恵の一太郎 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
そしてこの民族の鋳型いがたの中には、あるいはきわめて美しいあるいはきわめて卑俗な無数の不均衡な要素が、雑然と投げ込まれてるのが感ぜられた。彼女の美はとくに、その口と眼とに存していた。
そのうちに、鋳型いがたの中につぎこまれ、やがて、かたまってお釜になっちまった。そうなると出ることができない。やむをえず、文福茶釜を神妙につとめたんだというわけ。そんなところだろうと思う
金属人間 (新字新仮名) / 海野十三(著)
どこがどう押されてか、てかてかの軽い鋳型いがたに、ところどころ凸凹ができ、亀裂ひびがはいり、ぱくりと口をあくのである。
にんじん (新字新仮名) / ジュール・ルナール(著)
室内の浮気な釦穴ばたんあなが、多数の男性によってつくられた鋳型いがたのように、慇懃いんぎんに籐椅子にもたれていた。
大阪万華鏡 (新字新仮名) / 吉行エイスケ(著)
甲の頭の中にはちゃんとAの鋳型いがたのようなものが出来ているので、BCDの中に、ちょっとでもAに似たところがあると、その点をつかまえて、Aの鋳型にあてがって
観点と距離 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
両脚器の正確さをもってわたし自身の深い足跡をつたうのである——冬はこのような鋳型いがたにわれわれをはめこめてしまう——しかしそれらはしばしば大空自身の青でみたされていることがあった。
顕家はこの人の鋳型いがたに鋳られた理想の子として親の目にも映っていた。
私本太平記:10 風花帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
女取引所にあらわれる体温によって花咲いた男性の手管てくだを、侵略に委せて刺青いれずみした、肉体的異国的な地図と感情を失ったエモーションの波、そこに愛情の新らしい鋳型いがたを僕は見出すのだ。