金襖きんぶすま)” の例文
「座敷へ上がり込んじゃ興がめる。ほうも、く方も、外でこそ流しの味、金襖きんぶすまでは野暮やぼになる。そうおっしゃっておくんなさい」
松のや露八 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
上段の間で、つきあたりは金襖きんぶすまのはまっている違い棚、お床の間、左右とも無地の金ぶすまで、お引き手は総銀そうぎんに、あおいのお模様にきまっていた。
丹下左膳:02 こけ猿の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
金襖きんぶすま立派なる御殿のうちもあやなる美しき衣裳いしょう着たる御姫様床の間に向って何やらせらるゝその鬢付びんつき襟足えりあしのしおらしさ、うしろからかぶりついてやりたき程
風流仏 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
「なし、なし」と甲野さんは面倒臭くなったと見えて、寝返りを打って、例の金襖きんぶすまたけのこを横にながめ始めた。
虞美人草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
きのうは、新内しんないの女師匠が来た。富士太夫の第一の門弟だという。二階の金襖きんぶすまの部屋で、その師匠が兄に新内を語って聞かせた。私もお附合いに、聞かせてもらう事になった。
(新字新仮名) / 太宰治(著)
斉広なりひろがいつものように、殿中でんちゅうの一間で煙草をくゆらせていると、西王母せいおうぼを描いた金襖きんぶすまが、静にいて、黒手くろで黄八丈きはちじょうに、黒の紋附もんつきの羽織を着た坊主が一人、うやうやしく、彼の前へ這って出た。
煙管 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
ほんのりと庭のあかりを射返す金襖きんぶすまの一と間にめて、御廉みすのかげから外のけはいを音もなくうかゞいながら、しずかに脇息きょうそくもたれているであろうその冷やかな美しい目鼻立ちをくうに描いた。
それから正面の金襖きんぶすまを開くと、深尾が出た。一同平伏した。
堺事件 (新字新仮名) / 森鴎外(著)