金砂子きんすなご)” の例文
金砂子きんすなごの袋戸棚、花梨かりん長押なげし、うんげんべりの畳——そして、あわ絹行燈きぬあんどんの光が、すべてを、春雨のように濡らしている……。
鳴門秘帖:02 江戸の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
最後の金砂子きんすなごきおえた時融川は思わずつぶやいたが、つまりそれほどその八景は彼には満足に思われたのであった。
北斎と幽霊 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
月はないが、空はあざやかに晴れて、無数の星が金砂子きんすなごのようにきらめいていた。夜ももう十二時を過ぎた頃である。庭のどこかでがさがさという音が低くひびいた。
(新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
花川戸はながわとから山之宿やまのしゅくへかけての家々の洩れ灯が、金砂子きんすなごのように、チカチカまたたいている。
丹下左膳:02 こけ猿の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
なんの気もなく空を見れば、鉾尖ほこさきたけ白馬しらまたけとの間に、やや赤味を帯びた雲が一流れ、切れてはつづき、つづいては切れて、ほかの大空はいっぱいに金砂子きんすなごいた星の夜でありました。
大菩薩峠:05 龍神の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
兄が東京勤めになって、家族が一緒に住み始めた頃、母は、「いろいろ見せて戴いたよ」といわれました。床の間には定紋のぬいのある袋に入れた琴や、金砂子きんすなご蒔絵まきえ厨子ずしなども置いてありました。
鴎外の思い出 (新字新仮名) / 小金井喜美子(著)
金砂子きんすなごを八方に撒き散らすのを眺めながら
雪之丞変化 (新字新仮名) / 三上於菟吉(著)
瑠璃るり御空みそら金砂子きんすなご、星輝ける神前に
海潮音 (旧字旧仮名) / 上田敏(著)
金砂子きんすなご覆輪ふくりんを取った螺鈿鞍らでんぐらに、燃ゆるような緋房ひぶさをかけ、銀色のくつわ紫白しはくの手綱。——甚内の眼は射られた。
新書太閤記:02 第二分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
月はないが、空はあざやかに晴れて、無数の星が金砂子きんすなごのようにきらめいていた。夜ももう十二時を過ぎた頃である。庭のどこかでがさがさという音が低くひびいた。
探偵夜話 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
瑠璃るり御空みそら金砂子きんすなご、星輝ける神前に
海潮音 (新字旧仮名) / 上田敏(著)
蚊㡡かや越しではあるが、九尺の大床のわきには、武者隠しの小襖こぶすまがある。その金砂子きんすなごは、内にかくしてある刺客せっかくの呼吸と殺気とに気味悪く燦々きらきらしているではないか。
新書太閤記:07 第七分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)