酒甕さかがめ)” の例文
部屋と云っても坑を切り広げたもので、上と下がすぼまって、腹の所がふくらんでいるから、まるで酒甕さかがめの中へでも落込んだ有様である。
坑夫 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
いわゆる一夜酒ひとよざけ酒甕さかがめに醸して置いて、その熟するを待つ心が、同時にまた祭や節日に対する微妙なる準備心理であった。
木綿以前の事 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
熔岩流がそれを目がけて沢に沿うておりて来るのは、あたかも大蛇だいじゃ酒甕さかがめをねらって来るようにも見られるであろう。
神話と地球物理学 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
土匪どひの首領と、おもなる者は、広い土間の中にたむろして、酒甕さかがめを開け、若い女をとらえて、酔いつぶれていた。
宮本武蔵:06 空の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
所詮しょせん、過去の酒甕さかがめからしたたって来るしずくのようなもので、彼の注意が一旦明日のことに向けられると、二人は、もう、彼にとって、他の同級生と少しもえらぶところのない存在だったのである。
次郎物語:02 第二部 (新字新仮名) / 下村湖人(著)
髑髏どくろ熟視みつむ、きゆらそおの血の酒甕さかがめあひだより
第二邪宗門 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
かわらを焼いて、あの酒甕さかがめふたにして。
ルバイヤート (新字新仮名) / オマル・ハイヤーム(著)
常に酒甕さかがめに酒の貯えが無く、これを用いる機会がきわめて限られていたという以外に、席に列する者が互いに心を置かぬ人たちであって、歌を声高く歌っても
木綿以前の事 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
「さても気短な。忍阿はわしの乳母の良人。もう死んで行ったかや……。まだ酒甕さかがめの酒は残っておるに。他の面々は死に急ぐなよ。飲み尽くそうぞ。飲めや、各〻」
私本太平記:08 新田帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
敵の大将は、弓の真中を右の手で握って、その弓を草の上へ突いて、酒甕さかがめを伏せたようなものの上に腰をかけていた。その顔を見ると、鼻の上で、左右のまゆが太く接続つながっている。
夢十夜 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
酒はそれ以前には酒甕さかがめの中で造っていた。『更級日記さらしなにっき』の文にも見えているように、その甕は土中に作り据えてあって、酒を運ぶにはさらに小さなかめを用いていた。
木綿以前の事 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
「時名。寺中には、たくわえの酒もあろう。ありったけの酒甕さかがめをここへ運び出させろ」
私本太平記:08 新田帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「何だか酒甕さかがめのようですね」
虞美人草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
酒甕さかがめに酒をたんと貯めてあるのは、村長おさの家しかねえが」
宮本武蔵:06 空の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)