遠山えんざん)” の例文
わたくしはこの窓から、はるかに北の天に、雪を銀襴のごとく刺繍ししゅうした、あの遠山えんざんの頂を望んで、ほとんど無辺際に投げたのです、と言った。
唄立山心中一曲 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
つくづく見て居るにその趣向は極めて平凡なれどその結構布置善く整ひ崖樹がいじゅ遠山えんざんとの組合せの具合など凡筆にあらず。
墨汁一滴 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
遠山えんざんまゆを逆立てたさまが、怒れる羅浮仙らふせんのように凄艶に見えた。玄蕃は憎気にくげな歯を見せてせせら笑った。
剣難女難 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
首ばかり極彩色ごくざいしきが出来上り、これから十二一重ひとえを着るばかりで、お月の顔を見てにこりと笑いながら、ジロリと見る顔色かおいろ遠山えんざんまゆみどりを増し、桃李とうりくちびるにおやかなる
業平文治漂流奇談 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
はるか向うには、白銀しろかねの一筋に眼を射る高野川をひらめかして、左右は燃えくずるるまでに濃く咲いた菜の花をべっとりとなすり着けた背景には薄紫うすむらさき遠山えんざん縹緲ひょうびょうのあなたにえがき出してある。
虞美人草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
にうずもれた、きのこのように、利助りすけ作品さくひんは、あらわれませんでした。そしてうすあおい、遠山えんざんほどの印象いんしょうすらもその時代じだいひとたちにはのこさずに、さびしく利助りすけってしまいました。
さかずきの輪廻 (新字新仮名) / 小川未明(著)