跡取あととり)” の例文
新助の方は止め置いて、二三日めました。彌三郎さへ居なければ、お絹とめあはせられて、越後屋の跡取あととりになることは、あまりにも明白な新助だつたのです。
実松家という富豪の跡取あととり息子だったそうですが、どうした理由わけか、故郷に親類が一人も居なくなったので、田地田畑をスッカリ金に換えて上京したものだそうです。
復讐 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
岡野は重ねて、自分はよはひ五十歳を過ぎて、跡取あととりせがれもあり、此度の事を奉公のしをさめにしたいから、一番を譲つてもらつて、次の二番から八番までのくじを人々に引かせたいと云つた。
大塩平八郎 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
「死んだ旦那の跡取あととりの人だアよ」
青服の男 (新字新仮名) / 甲賀三郎(著)
半四郎と云此兄の半作は至つて穩當をんたう生質おひたちなれば是所謂惣領そうりやうの甚六とか云が如し然れども惣領のじん々々/\と世間にては馬鹿者ばかものの樣に云ども勿々なか/\にあらず既に諸侯にては御嫡子と稱し町人ならば家の跡取あととりまたざい家農家などにては遺跡ゐせき樣といふ惣領そうりやう遺跡ゐせきいふ道理もつともなりこれ
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
「だがネ、錢形の親分。この女は伯父をうらんで居たぜ。——伯父の總兵衞は、自分より年の若いお道を可愛がつて、跡取あととりにしさうだつたんだ。今殺さなきや——」
横山町の米屋——といつても、金貸しの方で名高い萬兩分限ぶげん、越後屋佐兵衞の跡取あととり娘お絹、辨天べんてんとも小町とも、いろ/\の綽名あだなで呼ばれる、界隈かいわい切つての美人だつたのです。
「では、お嬢さんのお君さんは、平松屋の跡取あととりではないわけでしょうな」
銭形平次捕物控:282 密室 (新字新仮名) / 野村胡堂(著)
「お前は、この家の跡取あととりの萬次郎とは仲が惡かつた相だね」
「永井和泉守樣は二年前に亡くなり、跡取あととりの鐵三郎樣が三年前から行方不知しれずで、今は和泉守の遠い伯父平馬樣といふのが後見格で、主人同樣に振舞つてゐますよ。平馬樣の子の平太郎といふ方が跡目相續するさうで——」