はなむけ)” の例文
言ふにも及ばない事、奴隷どれいの恥も、くるしみも、孫一は、其の座でけて、娘の哥鬱賢こうつけんはなむけした其の鸚鵡を肩にゑて。
印度更紗 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
さらばとて、姫はそれらのものをことごとく中尉の墓所の側室へ納め、おのが愛人の死出の旅路のはなむけとされました。
ウニデス潮流の彼方 (新字新仮名) / 橘外男(著)
小林に対する友誼ゆうぎを満足させるため、かつはいったん約束した言責げんせきを果すため、津田はお延のもらって来た小切手のうちから、その幾分をいて朝鮮行のはなむけとして小林に贈る事にした。
明暗 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
「おはなむけの辞、かたじけない。——じつはぎゃくを病んで、まだ少々病余にはござれど、武士の一ぶん、押して今日発向つかまつる。仮病にてはあらざりしことも、いつか上聞じょうぶんに達しおかれたい」
私本太平記:11 筑紫帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
……で御座いますからこのお芝居の終り次第に、私の持っておりますものの全部を、心ばかりのはなむけとして、私の顧問を通じて美鳥さんに受取って頂く準備がモウちゃんと出来ているので御座います。
二重心臓 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
こゝにはなむけの文を奉りて御首途を送りまゐらす。
かけはしの記 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
死ぬる命のはなむけに鳴いて暮らすか、籠の鳥
思ひ出:抒情小曲集 (旧字旧仮名) / 北原白秋(著)
秋風のはなむけも無きわかれかな 愚哉ぐさい
俳句はかく解しかく味う (新字新仮名) / 高浜虚子(著)
梁川星巌のはなむけの詩がある。
伊沢蘭軒 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
ふにもおよばないこと奴隷どれいはぢも、くるしみも、孫一まごいちは、けて、むすめ哥鬱賢こうつけんはなむけした鸚鵡あうむかたゑて。
印度更紗 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
さすがは酒井が注意して——早瀬へはなむけ、にする為だった——道学者との談話を漏聞かせまいため、先んじて、今夜はそれとなく余所よそへ出して置いたので。羽織の紐は、結んだかどうか、まだ帰らぬ。
婦系図 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)