ひん)” の例文
荘子そうじ』に「名はじつひんなり」とあるごとく、じつしゅにしてかくである。言葉も同じく考えのひん、思想のかくなりといいうると思う。
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
そのために二つの獣が同じものになるわけには行かない。名は実のひんというのはこういう意味である。
狸とムジナ (新字新仮名) / 柳田国男(著)
著作的事業としては、失敗に終りましたけれども、その時確かに握った自己が主で、他はひんであるという信念は、今日の私に非常の自信と安心を与えてくれました。
私の個人主義 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
一 詩歌しいか小説は創意を主とし技巧をひんとす。技芸は熟錬を主として創意を賓とす。詩歌小説の作措辞そじ老練に過ぎて創意乏しければ軽浮けいふとなる。然れどもいまだ全く排棄すべきにらず。
一夕 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
お婆さんが絵になり、その絵が絵を描いているのであります。描く主と、描かれるひんとは別のものではありません。「念々の称名は念仏が念仏を申すなり」と一遍上人いっぺんしょうにんはいわれました。
益子の絵土瓶 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
わたしより歳一つ上のお夏呼んでやってと小春の口から説き勧めた答案が後日のたたり今し方明いて参りましたと着更きがえのままなる華美姿はですがた名は実のひんのお夏が涼しい眼元に俊雄はちくと気を
かくれんぼ (新字新仮名) / 斎藤緑雨(著)
「二十日。時晴時雨ときにはれときにあめ。長女鉄漿染かねつけ。三沢老母ひんたり。吉田老母、お糸を招く。」
伊沢蘭軒 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
つづめて云うと、一は我から非我へ移る態度で、一は非我から我へ移る態度であります。一は非我が主、我がひんという態度で、一は我が主、非我が賓と云う態度とも云えます。
創作家の態度 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)