たっ)” の例文
ただ平岡と事を決する前は、麺麭パンの為に働らく事をうけがわぬ心を持っていたから、嫂の贈物が、この際糧食としてことに彼にはたっとかった。
それから (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
人を見る目も出来れば人の価値も信実もわかってくる。阿諛あゆと権謀の周囲で、離れてはじめてたっとさのわかるのはまことだけだ。
九条武子 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
ただたっとい名家の手にならないのが遺憾いかんであるが、心の中はそう云う種類のと同じく簡略にでき上っているとしか僕には受取れなかった。
彼岸過迄 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
彼は自分で学校生活をしているにもかかわらず、兄の日曜が、いかに兄にとってたっといかを会得えとくできなかった。
(新字新仮名) / 夏目漱石(著)
母子おやこは生れて以来の母子で、このたっとい観念を傷つけられたおぼえは、重手おもでにしろ浅手あさでにしろ、まだ経験した試しがないという考えから、もしあの事を云い出して
彼岸過迄 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
敬太郎は前後あとさき綜合すべあわして、何でもよほどたっとい、また大変珍らしい、今時そう容易たやすくは手に入らない時代のついたたまを、女が男からもらう約束をしたという事が解った。
彼岸過迄 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
自分が持っていた時よりは、たしかに十倍以上たっとい品のようにながめられただけであった。
(新字新仮名) / 夏目漱石(著)